9回では圧電素子ひとつが電気を音に変える原理を見ました。そして最後に居心地の悪い数字をひとつ残しました — 130dBを出すには非共振駆動で2,110V必要で、共振を使えば4.2Vまで下がる、というものです。今回はその共振をどう設計するかの話です。二つの問いに答えます — 素子ひとつをどうやってより良くするか(構造設計)、そして何個をどう集めるか(配置設計)。
共振という祝福であり呪い — Qが決めるもの
圧電トランスデューサは共振周波数で最も大きく振動します。これは祝福です。空気という軽い媒質に音を押し込む仕事はもともと極めて非効率で、共振はその振幅を数百倍に引き上げてくれます。同時に呪いでもあります — 共振が鋭いほど使える周波数幅が狭くなるからです。この鋭さを測る目盛りが品質係数Qで、定義は単純です。
Q = 共振周波数 f₀ ÷(振幅が−3dBに落ちる二点の間の幅 Δf)
この一行を40kHzに代入すると、設計の最初の壁がただちに現れます。キャリアにオーディオを載せると占有帯域がキャリア ± オーディオ最高周波数になるので(2回)、載せられるオーディオの上限は帯域幅の半分です。
| 品質係数 Q | 40kHzでの−3dB帯域幅 | 載せられるオーディオ上限 | 実質的な用途 |
|---|---|---|---|
| 500 | 80Hz | 40Hz | 事実上の単一トーン — 距離センサー |
| 200 | 200Hz | 100Hz | ON/OFF信号専用 |
| 40 | 1.0kHz | 500Hz | かろうじてブザー音 |
| 20 | 2.0kHz | 1.0kHz | 音声の明瞭度が不足 |
| 10 | 4.0kHz | 2.0kHz | 低音質の音声 |
| 5 | 8.0kHz | 4.0kHz | 聞き取れる音声 |
| 2.5 | 16.0kHz | 8.0kHz | 案内放送レベル |
ここにトランスデューサ設計の根本的な矛盾があります。9回の計算はQが高くなければ実用的な電圧で130dBが出ないと言い、この表はQが低くなければ人の言葉が載らないと言います。音声案内に必要な8kHzを載せるにはQが2.5以下でなければならず、そうすると振幅増幅が消えて駆動電圧が数百ボルトへ戻ってしまいます。この矛盾をどこで折り合わせるかが、そのままトランスデューサ設計です。実際のパラメトリックスピーカー用素子はおおむねQを10〜30あたりに置き、足りない帯域は信号処理(12・13回の変調・イコライジング)で埋めます。
厚みが周波数を決める — そして40kHzの逆説
共振周波数はどこから来るのか。最も基本となる厚み方向の共振は、板の上下面が自由なときに厚みが半波長になる条件で生じます。
t = c ÷ (2·f₀) 、ここでcはその材料内での縦波速度
PZTの厚みモード音速を4,600m/sとして計算すると次のようになります。
| 目標共振周波数 | 必要なPZT板厚 t = c/2f | 現実性 |
|---|---|---|
| 5MHz | 0.46mm | 医用超音波 — 標準的 |
| 1MHz | 2.30mm | 洗浄・加工用 — 標準的 |
| 200kHz | 11.5mm | 厚いが可能 |
| 40kHz | 57.5mm | 不可能 — 素子ひとつが大人の拳ほどになる |
ここが40kHzの逆説です。8回で私たちは素子の直径が4.29mm以下でなければならないという結論に至りましたが、厚み共振をそのまま使うと素子ひとつの厚みだけで57.5mmです。十倍以上のずれです。低周波ほど圧電板は厚くなり、厚くなるほどアレイは不可能になります。
解法はモードを変えることです。厚みで鳴らす代わりに、薄い金属円板を撓ませて(曲げモード、flexural)鳴らします。周縁が固定された薄い円板の1次曲げ共振は、近似的に次に従います。
f₀ ≈ 0.4694 × (t / a²) × √(E / (ρ(1−ν²))) 、tは板厚、aは半径
黄銅板(E = 100GPa、ρ = 8,500kg/m³、ν = 0.35)の材料定数は3,662m/sです。この値で40kHzになる寸法を逆算すると次の通りです。
| 金属円板の厚み | 40kHzになる半径 | 円板の直径 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 0.05mm | 1.47mm | 2.93mm | 薄すぎて取り扱い困難 |
| 0.10mm | 2.07mm | 4.15mm | — |
| 0.20mm | 2.93mm | 5.86mm | 実用域 |
| 0.30mm | 3.59mm | 7.18mm | ケース込みで10mm前後 |
57.5mmだったものが6mm前後まで縮みました。曲げモードは板を伸ばすのではなく撓ませるので、はるかに低い周波数で共振し、その分小さな部品で低周波を作れます。市販の40kHz超音波素子が圧電板を薄い金属円板に貼ったユニモルフ(unimorph)構造である理由がこれです。8回で「広く使われる40kHz素子のケース直径は10mm前後」と述べた、その数字の根がここにあります — 6mmの円板に支持リングとケースを付ければ、ちょうどそのくらいになります。
共振構造の設計 — 素子ひとつを磨く三つの手法
狭い共振の限界は材料ではなく幾何で越えます。実務で使われる三つの変奏はこうです。
- 二重連結ダイアフラム(Double Linked Diaphragm) — ロッド(Rod)で連結された二枚のダイアフラムが互いに異なる共振周波数を二つ作り、二つの山の間の実効帯域幅を広げます。前の表のQ = 20の素子を二つ1kHz離して重ねると、単一の山では得られない平坦区間が生まれます。
- ラジアルコーン(Radial Cone) — 金属ダイアフラムの上にコーン構造物を載せて振動モードを調整し、放射面積を広げて音をより大きく送り出します。小さな振動板の大きな変位を大きな面へ移すインピーダンス変換器の役割です。
- マイクロテクスチャ放射板(Micro-textured Plate) — 放射板表面の微細な凹凸が望ましくない変形振動を和らげ、指向特性を改善します。曲げモードは板の上に節(node)と腹(antinode)を作りますが、節の近くで位相が反転すると、それがそのままサイドローブになります。
等価回路で読むトランスデューサ — BVDモデル
設計を定量的に扱うには、機械振動を回路に移し替える必要があります。1928年にヴァン・ダイク(Van Dyke)が提案した BVD(Butterworth-Van Dyke)等価回路がその標準ツールです。圧電共振子は次の二つの枝の並列として表されます。
制動容量 C₀ ∥(機械枝:L₁ − C₁ − R₁ 直列)
ここでC₀は9回で見た純粋に電気的な静電容量であり、L₁・C₁・R₁は機械量の翻訳です — L₁は振動する質量、C₁は剛性の逆数(コンプライアンス)、R₁は損失(内部摩擦+空気へ出ていく放射抵抗)です。この回路が強力なのは測定だけで物理量を逆算できるからです。インピーダンスアナライザで直列共振 f_s(インピーダンス最小)と並列共振 f_p(インピーダンス最大)を読めば、次が得られます。
k_eff² = (f_p² − f_s²) ÷ f_p² , C₁ = C₀·((f_p/f_s)² − 1) , L₁ = 1 ÷ ((2πf_s)²·C₁) , R₁ = 2πf_s·L₁ ÷ Q
実測可能な値で例を作ってみましょう。f_s = 40.0kHz、f_p = 41.0kHz、C₀ = 2nF の素子なら、計算結果はこうなります。
| 項目 | 計算式 | 値 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 実効結合係数 k_eff | √(1 − (f_s/f_p)²) | 0.220(k² = 4.82%) | 材料のk(0.7)よりはるかに低い — 構造損失 |
| 機械枝容量 C₁ | C₀·((f_p/f_s)²−1) | 101pF | C₀/C₁ = 19.8 — 電気側が20倍優勢 |
| 機械枝インダクタンス L₁ | 1/((2πf_s)²C₁) | 156mH | 等価質量 — 大きいほど重く遅い |
| 損失抵抗 R₁(Q = 20) | 2πf_s·L₁/Q | 1,965Ω | 帯域2.0kHz — 音声の下限 |
| 損失抵抗 R₁(Q = 100) | 2πf_s·L₁/Q | 393Ω | 帯域400Hz — トーン専用 |
この表で最も重要なのは1行目です。材料自体のkは0.7なのに(9回の表)、完成した素子で測定される実効結合係数は0.220まで落ちます。圧電板が金属円板・接着層・ケースと一緒に動くことで、圧電体でない部分に蓄えられるエネルギーがその分増えるからです。設計者が実際に戦う相手は材料の理論値ではなくこの構造損失です。もう一つ — C₀/C₁が19.8ということは、電気的に入れたエネルギーの大半が静電容量を行き来しているだけという意味で、9回でインダクタによりC₀を打ち消すべきだと述べた理由がこの比にそのまま入っています。より精密な設計には多層構造と整合層まで分布定数で扱う KLMモデル(1970年)が使われますが、出発点は常にこの四素子です。
−43dBを取り戻す — 整合層の設計
5回で残した宿題をここで解きます。圧電セラミックの音響インピーダンスは約3.3×10⁷Rayl、空気は413Raylです。二つの媒質が直接接しているとき透過する音響エネルギーの割合は
T = 4·Z₁·Z₂ ÷ (Z₁ + Z₂)² = 4 × 3.3×10⁷ × 413 ÷ (3.3×10⁷ + 413)² = 5.01×10⁻⁵
すなわち0.005%、−43.0dBです。一万分の一も外へ出られません。これが5回で言った−43dBの正体です。解決策は光学の反射防止コーティングと同じ原理 — 中間のインピーダンスを持つ 1/4波長整合層(matching layer)を挟むことです。厚みがちょうどその層の中でのλ/4のとき、層の前後で反射した波が半周期ずれて打ち消し合い、透過が最大になります。理想的なインピーダンスは二つの値の幾何平均です。
Z_m = √(Z_圧電 × Z_空気) = √(3.3×10⁷ × 413) = 116,700Rayl(0.117MRayl)
問題はこの値がとんでもなく低いことです。水が1.5MRayl、ゴムが1MRayl程度なのに、それより十倍軽くなければなりません。実在する材料で作るとどれだけ取り戻せるかを計算しました(1層、中心周波数基準)。
| 整合層材料(例) | インピーダンス Z_m | 透過率 T | dB | 整合なしとの差 |
|---|---|---|---|---|
| なし(直接放射) | — | 0.005% | −43.0dB | 基準 |
| エポキシ+中空微小球 | 1.50MRayl | 2.39% | −16.2dB | +26.8dB |
| シリコーンゴム | 1.00MRayl | 5.31% | −12.8dB | +30.2dB |
| 多孔質ポリマー | 0.30MRayl | 45.7% | −3.4dB | +39.6dB |
| 理想整合層(理論) | 0.117MRayl | 100% | 0dB | +43.0dB |
表を見ると0.3MRaylまで下げるだけで−3.4dB、つまり半分近くが通過します。40dB近い改善ですから、整合層ひとつがトランスデューサの効率を一万倍変える計算です。ただしこの低いインピーダンスを得るには材料を極端に軽くしなければならず(エアロゲル・発泡体・中空微小球の充填)、そうした材料はたいてい損失が大きく湿気に弱く機械的にもろいのです。そこで実務ではインピーダンスを段階的に下げる多層構成を使います。二項解で計算した理想値は、2層なら0.766MRaylと0.018MRayl、3層なら1.96 / 0.117 / 0.0069MRaylです — 層が増えるほど最後の層がより軽くならねばならないという事実が、この技術の根本的な難しさを示しています。
厚みも侮れません。λ/4は層材料の音速で計算するので、40kHzで音速400m/sの多孔質層なら2.5mm、音速150m/sの発泡体なら0.94mm必要です。素子の直径が6mmなのに整合層が2.5mmなら、部品の半分が整合層ということになります。しかも1/4波長条件は一つの周波数でしか正確でないため、整合層を使った瞬間に帯域幅がもう一度狭まります。
バッキング — 帯域幅をお金で買う
圧電板の背後に何を当てるかも設計です。背面が空気なら後方へ出るエネルギーがほとんどなく効率は最大になりますが、振動が長く鳴り続けてQが高く帯域は狭くなります。背面にタングステン粉を混ぜたエポキシのような吸音バッキングを付けると振動が速く減衰してQが下がり帯域が広がりますが、その分エネルギーが後ろへ抜けていきます。極端にバッキングのインピーダンスを圧電体と揃えると半分が後方へ行くので−3dBの代償を払います。1966年のコソフ(Kossoff)の古典的研究が整理したのが、まさにこのトレードオフです。医療・非破壊検査用のパルストランスデューサは短いパルスが命なので厚いバッキングを使い、指向性スピーカーは連続波の最大出力が目的なのでバッキングをほとんど使いません。同じ部品が用途によって正反対に設計される代表的な箇所です。
ホーン — 振幅を幾何で増幅する
もう一つの古典的手法がホーン(horn)です。断面積が減っていく金属棒を共振子に付けると、エネルギー保存により狭くなった側の振動振幅が大きくなります。段のついたステップホーンの理論的な振幅利得は断面積比に等しく、直径比2:1なら4倍(+12.0dB)、3:1なら9倍(+19.1dB)です。ただしこの利得は狭い面で大きな振幅を得るものなので、放射面積が小さくなり指向性はむしろ悪化します(1回の波長対口径比)。そのため高出力の超音波加工ではホーンが標準ですが、広い口径が必要な指向性スピーカーでは逆に面積を広げるラジアルコーンが選ばれます。同じ物理をどちらの向きに使うかの違いです。
なぜアレイに集めるのか — 利点と代償
素子ひとつでは指向性スピーカーになりません。先に計算したとおり40kHz素子は直径6〜10mmで、1回の波長対口径比で見ればこの程度の口径は8.6mmの波長に対してほぼ無指向です。数百個を配列すれば得るものと払うものがはっきりします。
- 得るもの — ① 数百個のエネルギーが合わさった強力な音圧(非線形効果を起こす閾値を越える鍵)、② 大きな開口面による精緻な波面と直進性(D ≫ λ)、③ 8回で見た位相制御ビームステアリング。
- 払うもの — ① 部品・組立・はんだ付け工程コストの大幅増、② 大電流駆動・信号処理・発熱管理が絡み合う回路の複雑さ(9回の無効電流の表を思い出せば、400個の並列は0.8μFです)、③ アレイ規模に比例する大きさと重さ。
数の力 — 20log(N)と六角リング
素子をN個集めると軸上音圧はどれだけ上がるでしょうか。すべての素子が同じ位相で鳴れば、軸上では音圧(振幅)がそのままN倍になります。エネルギーがN倍ではなく振幅がN倍という点が重要です。
軸上音圧利得 = 20·log₁₀(N) [dB] 、総放射電力の増加 = 10·log₁₀(N) [dB]
二つの式の差 10·log₁₀(N) がすなわち指向性利得です — 横へ行くはずのエネルギーを前へ寄せた分です(8回で「ビームフォーミングはエネルギーを作るのではなく集めるもの」と述べた、その言葉の数式です)。素子ひとつが20m地点で19.6dBを作る場合で計算すると次の通りです。素子数は六角最密配置のリング数nに対して3n(n+1)+1で増えます。
| 六角リング数 | 素子数 N | 軸上利得 20log(N) | 20mでの音圧 | 10mm間隔時のアレイ幅 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 1 | 0dB | 19.6dB | 10mm |
| 1 | 7 | +16.9dB | 36.5dB | 30mm |
| 2 | 19 | +25.6dB | 45.2dB | 50mm |
| 3 | 37 | +31.4dB | 51.0dB | 70mm |
| 5 | 91 | +39.2dB | 58.8dB | 110mm |
| 7 | 169 | +44.6dB | 64.2dB | 150mm |
20mの距離を基準に、素子1個は19.6dB — 事実上聞こえない水準です。19個なら45.2dBで静かな部屋の水準を超え、91個なら58.8dB — 日常会話(70dB)に近づく伝達力が出ます。1回で述べた「数十メートル先まで明瞭な音」は、結局十分な数の素子を正しい幾何で配列してはじめて成り立つ数字です。表で併せて読むべきは最後の列です — 91個を10mm間隔で六角配置すればアレイ幅は110mmになります。8回で計算したとおり、この程度の口径でこそキャリアのビームが狭くなり、7回のレイリー距離も1m近くまで伸びます。音圧と指向性が同じ寸法で同時に決まるという意味です。
付け加えると20log(N)は理想的な上限です。素子間の共振周波数が±1%ばらつけば位相が揃わず合成は完全でなくなり、その分だけ利得が削られます。大量素子アレイで素子選別(binning)が事実上必須の工程である理由がここにあります。
設計者の総合 — 一つの40kHzトランスデューサができるまで
ここまでの決定を順に並べると、実際の設計になります。
- ① モード選択 — 40kHzでの厚み共振は57.5mmなので不可。薄い金属板の曲げモードで行く。
- ② 寸法確定 — 0.2mm厚の黄銅板、半径2.93mm(直径5.9mm)。ケース込みで10mm前後。
- ③ Q目標 — 必要なオーディオ帯域から逆算。2kHzの音声ならQ ≤ 10、実際にはQ 10〜30で折り合い、不足分は信号処理で。
- ④ 放射面・背面の処理 — 整合層で−43dBを−3〜−16dBの区間まで回復させつつ、帯域がさらに狭くなることを③の予算に反映し、連続波の最大出力が目的なのでバッキングは最小に留めて発熱経路を確保する。
- ⑤ 電気整合とアレイ — C₀をインダクタで打ち消し(9回の表)、目標音圧からNを(20log N)、目標ビーム幅から口径を(8回)それぞれ逆算し、大きい方がアレイの大きさを決める。
順序を見れば分かるとおり、この設計には自由変数がほとんどありません。キャリア周波数を40kHzと決めた瞬間に素子の大きさが決まり、素子の大きさが決まれば8回の間隔規則と衝突し、帯域幅の要求はQを通じて出力と衝突します。
限界とよくある誤解
- 「良いトランスデューサは感度が高いもの」という誤解 — パラメトリックスピーカーでは感度より帯域幅と歪みが音質を決めます。素子の非線形が作った高調波は空気の非線形と区別されないまま雑音として復調されます。
- 「整合層を付ければ必ず得」という誤解 — 整合層は効率を上げる代わりに帯域幅を狭め、層材料の内部損失がその利得の一部をまた食べます。損失の大きい超軽量材料ほどこの相殺が大きくなります。
- 「バッキングは厚いほど良い」という誤解 — バッキングは帯域幅を買うために出力を売る取引です。連続波用途ではたいてい損です。
- 素子を増やしても音質は良くなりません — 個数は音圧とビーム幅を変えるだけで、帯域幅と歪みは素子ひとつの特性がそのまま残ります。100個集めても、それぞれが出せない周波数は依然として出ません。
- すべての素子が同じではありません — 共振周波数・感度の個体差が、20log(N)の理想的な合成と8回のサイドローブ設計を同時に崩します。大量アレイの実質的な性能上限は、たいていここで決まります。
まとめ
トランスデューサ設計は二層です。素子層ではモード(厚み対曲げ)・Q・整合層・バッキングで帯域幅と効率を交換し、システム層ではコスト・複雑さ・大きさを代償に音圧と照準能力を買い入れます。今回の数字で書き直すと — 40kHzの厚み共振は57.5mmで不可能、曲げモードなら0.2mm板・直径5.9mm、整合なしでは−43dB・0.3MRaylの整合層なら−3.4dB、音声8kHzを載せるにはQ ≤ 2.5、91個の六角配列なら20mで58.8dB — これがトランスデューサ設計の座標です。これでハードウェアの話は終わりです — 次回からはデジタルの世界へ移ります。最初の関門はアナログの音を数字に変える規則、ナイキストの定理です。
シリーズ案内
「指向性スピーカーの科学」は以下の順で続きます。
- 指向性スピーカーとは何か — 音の懐中電灯
- 聞こえない音に音を載せる — 動作原理の第一歩
- 指向性スピーカー活用事例 — 展示・安全・リテール・オフィス
- 超音波とは何か — 定義・種類・伝搬特性
- なぜ超音波なのか — 生成原理と応用マップ
- 空気がスピーカーになる魔法 — PAA 非線形音響
- PAA 理論の深化 — Berktay・Westervelt・KZK
- 音を照準する — フェーズドアレイとビームフォーミング
- 圧電効果 — 電気が音になる瞬間
- 超音波トランスデューサ設計 — 共振と配置(今回)
- 以降:ナイキスト、変調、信号処理
このシリーズは、超音波指向性音響技術を自ら研究・整理した自主講義資料をブログ形式で再構成したものです。図版は当該資料から抜粋しています。
参考資料
- K. S. Van Dyke, "The Piezo-Electric Resonator and Its Equivalent Network," Proc. IRE 16(6), 742 (1928):本文のBVD等価回路(C₀ ∥ L₁C₁R₁)の原論文 — 機械振動を回路へ移す標準
- R. Krimholtz, D. A. Leedom & G. L. Matthaei, "New equivalent circuits for elementary piezoelectric transducers," Electronics Letters 6(13), 398 (1970):整合層・バッキングまで分布定数で扱うKLMモデル — 多層トランスデューサ設計の標準ツール
- G. Kossoff, "The Effects of Backing and Matching on the Performance of Piezoelectric Ceramic Transducers," IEEE Trans. Sonics Ultrason. 13(1), 20 (1966):バッキング・整合層が感度と帯域幅をどう交換するかを整理した古典 — 本文バッキング節の根拠
- C. S. Desilets, J. D. Fraser & G. S. Kino, "The design of efficient broad-band piezoelectric transducers," IEEE Trans. Sonics Ultrason. 25(3), 115 (1978):多層1/4波長整合層のインピーダンス設計理論 — 本文の2層・3層の値の系譜
- T. E. Gómez Álvarez-Arenas, "Acoustic impedance matching of piezoelectric transducers to the air," IEEE TUFFC 51(5), 624 (2004):空気整合に必要な超低インピーダンス材料と多孔質層の実際 — 本文の整合層表の根拠
- B. Jaffe, R. S. Roth & S. Marzullo, "Piezoelectric Properties of Lead Zirconate-Lead Titanate Solid-Solution Ceramics," J. Appl. Phys. 25(6), 809 (1954):本文で厚み共振とインピーダンス計算に用いたPZTの材料的出発点
- IEEE Std 176-1987, IEEE Standard on Piezoelectricity:直列・並列共振から実効結合係数 k_eff を求める測定規約の標準定義
- M. Yoneyama et al., "The audio spotlight: An application of nonlinear interaction of sound waves to a new type of loudspeaker design," JASA 73(5), 1532 (1983):多数の超音波素子を平面配列した最初のパラメトリックスピーカー — アレイ設計の原型
- K. Aoki, T. Kamakura & Y. Kumamoto, "Parametric loudspeaker — characteristics of acoustic field and suitable modulation of carrier ultrasound," Electron. Commun. Jpn. (Part III) 74(9), 76 (1991):アレイ型パラメトリックスピーカーの音場・指向特性の実測
- C. Shi & Y. Kajikawa, "Effect of the ultrasonic emitter on the distortion performance of the parametric array loudspeaker," Applied Acoustics 112, 108 (2016):トランスデューサの狭帯域と非線形が再生歪みにどう現れるかの実測 — 本文「限界と誤解」節の根拠
- J. Li et al., "Piezoelectric micromachined ultrasonic transducer array for micro audio directional speaker," IEEE ICMA 2013, 450:曲げモード振動膜を半導体プロセスで作り素子寸法の制約を解くPMUTアプローチ
- H. E. Bass, L. C. Sutherland & A. J. Zuckerwar, "Atmospheric absorption of sound: Further developments," JASA 97(1), 680 (1995):20m到達の計算に用いた40kHz大気吸収係数の根拠