前回、私たちはELAが何をするのかを見ました——表面だけをナノ秒のあいだ溶かして結晶を育てる仕事でした。今回はその仕事を実際にやってのける装置の話です。レーザー光源から基板まで光が通る道をたどりながら、「なぜこの波長なのか」「なぜ光学系がこれほど複雑なのか」、そして現場が最も恐れる縞のむらの正体を扱います。
エキシマレーザーとは何か
ELAの「E」はエキシマ(Excimer)です。「励起二量体(Excited dimer)」の略で、励起状態でのみ一瞬だけ存在できる分子を意味します。ふだんは結合しない不活性ガス(キセノン・クリプトンなど)とハロゲン(塩素・フッ素など)が強い電気エネルギーを受けるとごく短い瞬間だけ手を結び、すぐに離れながらそのエネルギーを紫外光子として吐き出します。
この「存在したそばから崩れる」性質が、レーザーにはむしろ有利です。基底状態の分子がほとんどないので反転分布が自然に成立し、増幅が容易に起こります。組み合わせによって波長が決まり、ディスプレイの結晶化が使う席はそのうちの一つだけです。
| ガスの組み合わせ | 波長 | 光子エネルギー | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ArF | 193nm | 6.4eV | 半導体露光、微細加工 |
| KrF | 248nm | 5.0eV | 露光、基板剥離(LLO) |
| XeCl | 308nm | 4.0eV | ディスプレイ結晶化(ELA) |
| XeF | 351nm | 3.5eV | 材料加工、研究用 |
なぜよりによって308nmなのか

- シリコンがこの波長をほぼ飲み込む——非晶質シリコンの308nm吸収率は98%以上で、吸収深さは数十ナノメートルにすぎません。エネルギーが表面の薄い層に集中し、表面だけを溶かしてガラスは温めないことが可能になります。
- 波長が長くなって可視光・赤外へ行くと、シリコンは光を透過させてしまい表面加熱になりません。
- 高出力を安定して出せる——エキシマレーザーには反応の中間生成物が自ら出した光を再吸収して出力を削る問題がありますが、XeClの組み合わせはこの損失が比較的小さくなります。
- 同じエキシマでも193nm・248nmは半導体露光や基板剥離に使われ、ディスプレイの結晶化は308nmの席です。
ここに実務的な理由がもう一つ加わります。波長が短いほど光学部品の寿命が短くなります。193nm帯ではレンズ材料が紫外で損傷し定期交換が頻繁になりますが、308nmは比較的寛容で、大面積装置を長く回すのに有利です。露光機のように精度が最優先の装置と、大面積を休みなく走査せねばならない結晶化装置とで要求が違うという点が、波長の選択にそのまま反映されているわけです。
ビームが基板に届くまで——光学系の旅路
レーザーから出た光をそのまま基板に撃ってはいけません。出力断面の強度が均一でないからです。前回見たとおり最適エネルギー窓は2.5%程度と狭いので、強度がばらついたビームはそのままむらになります。だから装置の大部分が光学系なのです。
- ホモジナイザー——ビームを何本かに分割してから重ね直し、断面強度を平坦にします。でこぼこの尾根を押して高原にする作業です。マイクロレンズ配列を自由曲面で設計して平坦度を引き上げる研究が今も続いています。
- ビーム整形光学系——平坦になったビームを細長いライン状に整えます。幅が狭いほどエネルギー密度を上げやすく、長さが長いほど一度に走査する面積が広くなります。
- 微小平滑ミラー(micro-smoothing)——エキシマレーザーはコヒーレンスが低めですが、それでも光学系の中で干渉縞が生じます。これを圧電アクチュエータでミラーを微かに震わせ、干渉縞を時間的にならす方式で扱います。
- スキャンステージ——基板を精密に少しずつ移動させ、ラインビームが全面を重ねながら走査するようにします。
なぜわざわざ細長いラインでなければならないのかは、簡単な割り算で明らかになります。パルス一発のエネルギーをビーム面積で割った値が即ちエネルギー密度であり、第6回で見た最適区間はおおよそ300〜450mJ/cm²の帯域です。
| ラインビーム寸法 | ビーム面積 | パルス0.5J | パルス1.0J | パルス1.5J |
|---|---|---|---|---|
| 465 × 0.4mm | 1.9cm² | 269mJ/cm² | 538mJ/cm² | 806mJ/cm² |
| 750 × 0.4mm | 3.0cm² | 167mJ/cm² | 333mJ/cm² | 500mJ/cm² |
| 1,500 × 0.4mm | 6.0cm² | 83mJ/cm² | 167mJ/cm² | 250mJ/cm² |
表を横に読むとビームを長くするほど強い光源が要ることがはっきりします。ライン長を465mmから1,500mmへ三倍にすれば、同じエネルギー密度を得るためにパルスエネルギーも三倍が必要です。縦に読むと、なぜ幅を0.4mm程度まで狭めるのかが見えます——幅を二倍に広げれば必要なパルスエネルギーも二倍になるからです。大面積装置の大きさを決めるのはステージではなく光源のパルスエネルギーです。
つまりELA装置の本質は「強いレーザー」ではなく「均一にする光学系+精密に動かすステージ」です。実際、ELA工程制御のためのモニタリング方法そのものが特許の主題になるほど、ビーム状態のリアルタイム監視はこの装置の中核機能です。
処理量の算数——なぜELAがボトルネックなのか
第6回でオーバーラップ率が品質と処理量を交換すると述べました。その交換を装置の視点の数字に移すとこうなります。スキャン速度はスキャンピッチ × 繰り返し周波数なので、オーバーラップ率とレーザーの毎秒発射回数さえ分かれば直ちに出ます。
| オーバーラップ率 | スキャンピッチ | 300Hz | 600Hz | 1,200Hz | 1,500mmを走査する時間(600Hz) |
|---|---|---|---|---|---|
| 90% | 40μm | 12.0mm/s | 24.0mm/s | 48.0mm/s | 約63秒 |
| 95% | 20μm | 6.0mm/s | 12.0mm/s | 24.0mm/s | 約125秒 |
| 98% | 8μm | 2.4mm/s | 4.8mm/s | 9.6mm/s | 約312秒 |
三つのことが読み取れます。第一に、スキャン速度が毎秒数ミリメートルの水準です。目で見るとほとんど止まっているように、ゆっくりと這っていきます。第二に、オーバーラップを95%から98%へ上げると同じ基板を走査するのに2.5倍かかります。第三に、これを取り戻す唯一のつまみが繰り返し周波数です。放電励起XeClレーザーをkHz級で連続運転する技術が古くから研究されてきた理由がここにあります——繰り返し周波数を二倍にすれば処理時間は半分になります。
そこでラインは別の方向でも対応します。ELA装置を複数台並べて基板を交互に流したり、一枚の基板を区画に分けて並列処理したりする形です。ただし装置を増やすと装置間ばらつきという新しい問題が生じます。同じ設定値でも光源のガス状態と光学系のコンディションが違えば結晶粒が微妙に変わり、その差が一枚の基板の中で区画境界のむらとして現れます。装置を増やして処理量を買えば均一度を支払うことになるので、台数の増設は単純な投資判断ではなく品質設計の問題になります。
ただし繰り返し周波数を上げることにも代償があります。同じ場所をより頻繁に叩けばガスと電極の消耗が速くなり、パルスごとのエネルギー偏差を抑えることも難しくなります。第6回で見た2.5%の狭い窓は、繰り返し周波数が上がるほど守りにくい条件になります。速く回すほど均一度が揺らぐ——これがこの装置の根本的な緊張です。
レーザーガスは消耗品である
エキシマレーザーでしばしば見落とされる事実があります。光を出す物質そのものがすり減ってなくなるという点です。固体レーザーの結晶や半導体レーザーのチップと違い、エキシマレーザーの発光体はチャンバーを満たす気体の混合物です。
XeClの組み合わせで消耗するのは主にハロゲンです。放電が繰り返されると塩素が電極金属やチャンバー内壁と反応して少しずつ消え、その場所に反応副生成物と不純物が積もります。結果は二つの形で現れます——出力がじわじわ下がり、同時にパルスごとのエネルギー偏差が大きくなります。第6回で見た2.5%の窓を考えると、二つ目のほうが危険です。平均出力が少し下がったのは電圧を上げて補償できますが、揺らぎが大きくなったのは補償する手立てがありません。
そこで運用は二段階に分かれます。ハロゲンだけを少量補充して出力を戻す部分補充を定期的に行い、不純物が蓄積したらチャンバー全体のガスを完全交換します。電極はそれよりずっと長い周期で交換しますが、摩耗が進むと放電が片側に偏ってビーム断面の強度分布が傾きます——その結果が先に見たスキャン方向と平行な縞です。むらの原因をたどって上っていくと、光学系を越えて結局は光源の消耗状態に行き着くことが珍しくありません。
ステージ精度がそのままピッチ精度
光学系がどれほど良くても、基板を動かすステージが揺れては意味がありません。どれほど精密でなければならないかは、先の二つの数字を掛ければすぐ出ます。
オーバーラップ95%でスキャンピッチは20μm、ある一点が受けるショットは20発です。ところがピッチが1μmずれるだけで、その点が受けるショット数は20発から19発や21発に変わります。比率にすれば5%です。第6回で見た最適窓が2.5%でしたから、1μmの送り誤差だけですでに窓を二倍に外れます。
逆算すれば要求仕様が出ます。累積エネルギー偏差を窓の半分である1%以内に収めるには、ピッチ誤差が0.2μm以内でなければなりません。1,500mmを走査するあいだその精度を保たねばならないので、全行程に対しては百万分の一水準の送り精度です。ELA装置が精密ステージ技術の集合体と呼ばれる理由であり、振動・温度ドリフト・基板の反りがすべて管理対象になる理由でもあります。
ELAむらとモアレ——現場が最も恐れるもの
ELA工程の代表的な不良が縞むら(ELAムラ)です。スキャン方向に垂直な規則的な明るさの差として現れる現象で、根本原因は結局ひとつです——結晶構造・結晶粒径・粒界が場所ごとに違えばTFT性能が変わり、その差が画面で明るさの差として見えるということです。学術文献も「明るさ不均一の周期がスキャンピッチと正確に一致する」と報告しています。
この一文が診断の核心です。むらには周期があり、その周期が原因を指し示します。
| むらの見え方 | 周期 | 指し示される原因 | 一次対応 |
|---|---|---|---|
| スキャン方向に垂直な縞 | スキャンピッチと一致 | パルス間エネルギー偏差、ピッチ誤差 | エネルギー安定化、ピッチ再調整 |
| スキャン方向と平行な縞 | ビーム長手方向の位置 | ラインビーム断面の強度分布 | ホモジナイザーの調整・清掃 |
| 広い周期の波模様 | 画素周期との差 | ELA周期と画素周期の干渉 | スキャン角を1〜3°傾ける |
| 不規則な斑点 | なし | パーティクル、局所欠陥 | 先行洗浄・検査の強化 |
三行目がモアレ(Moiré)です。ELAが残した周期と、画素やマスクといった別の規則的パターンの周期が近いと、両者の差が拡大されて広い波模様として見えます。二つの周期がまったく違えば問題なく、まったく同じでも問題ないのに、わずかにずれたときが最悪だというのがモアレの性質です。だから対応が「周期を合わせる」ではなく「スキャンを1〜3°傾けて周期を確実にずらす」になります。
ガスを流す——酸素という調味料
ELAチャンバーにはガスが流れます。たいていは窒素のような不活性ガスですが、そこに少量の酸素を意図的に混ぜます。理由は一見逆説的です——結晶粒が大きくなりすぎるのを抑えるためです。
前回は大きな結晶粒が良いと述べたのに、なぜ抑えるのでしょうか。答えは均一性です。第6回の表で見たとおり、結晶粒が大きくなるほどチャネル内の粒界数が減り、素子ごとのばらつきが大きくなります。酸素を微量入れると成長が適度に抑えられ、分布が整います。実際、結晶化中の酸素混入を制御する方法は特許の主題でもあります。
代償も明確です。酸素濃度が上がると電子移動度は下がります。またガス流量・酸素濃度・排気方向がずれると、スキャン方向と垂直に流れる水のような模様のむらが生じます。「最も大きく」ではなく「最も均一に」を選び、その代償を数値で管理すること——これがELAレシピの実体です。
見えない爆弾——下地のパーティクル
もう一つの失敗モードはシリコン層の下に隠れていたパーティクルです。PI表面やバッファ層の中に金属や異物の粒子が埋まっていると、ふだんは何の問題もないのに、ELAの瞬間に事故を起こします。
メカニズムはこうです。結晶化が進むとシリコンの光学的性質が変わってレーザーがより深く透過するようになり、そのエネルギーが下にあったパーティクルに届きます。局所的に過熱した地点は膨れたり(billowing)破裂したりして表面を変形させ、その場所はのちのドーピング工程で局所的に過剰ドープされ、周囲より低い電圧で点灯します。結果は画面の明るい点。前工程(第2・3回)で洗浄と検査にあれほど手をかける理由が、数回あとにこうして現れます。
対応はビームの焦点と強度の精密な調節です。XeCl光源の焦点深度は±150μm程度とされており、基板がこの範囲を外れて反ったりステージが揺れたりすれば、たちまちエネルギー密度が窓の外へ出ます。第5回で見た熱応力による基板の反りがここで再び問題になるわけです——前工程の管理の失敗が、数段階あとで装置の焦点余裕を食いつぶします。
ビームをどうやって覗くのか
「エネルギー密度を監視する」と述べましたが、幅0.4mmの紫外線のラインをどうやって測るのでしょうか。ここにも層があります。
- 総エネルギー——ビーム経路の一部を分岐させてエネルギーメーターで受けます。パルスごとに値が出るので揺らぎをリアルタイムで見られますが、そのエネルギーがライン上にどう分布しているかは教えてくれません。
- 断面分布——ビームプロファイラで強度の横方向分布を撮ります。ホモジナイザーが役目を果たしているか、片側に傾いていないかがここで表れます。ただし装置を止める必要があるので、常時監視ではなく定期点検です。
- 結果からたどる——最も確実なのは実際に試片を一度走査し、その表面を見ることです。結晶化した場所は光学的性質が変わって反射率が変化するため、むらの形と周期がそのままビームの状態を語ります。
三つの層の関係が重要です。総エネルギーは速いが粗く、断面分布は精密だが遅く、結果の観察は正直だがすでに遅いのです。そこで現場は三つを重ねて使います——常時は総エネルギーの推移を見て、定期的に断面を確認し、むらが出たら試片で原因を絞ります。先のむら診断表が実際に機能するのは、この三つ目の層があるからです。
現場は何を見張るのか——管理ポイント3
- エネルギー密度のモニタリング——ELAの命。リアルタイムの出力監視と定期的な実測校正で、狭い最適窓を外れないように保ちます。ガス寿命と電極摩耗で出力がじわじわ下がるので、絶対値より推移を見ます。
- 結晶粒径・均一度——定期的に試料を取って断面を観察し、基板内で複数のパネル・複数の地点を抜き取り調査します。目標は「大きな結晶粒」ではなく「定められた範囲内の均一な結晶粒」です。
- 光源・光学系のコンディション——レーザーガスの寿命、ミラー・レンズの汚染と劣化、ステージ送りの精度。この三つが静かに悪化して、ある日むらとして表面化するので、予防保全の周期管理がそのまま品質管理になります。
これで基板の上には大きな結晶粒を持つ多結晶シリコン膜が用意されました。しかしまだトランジスタではありません——どこが通路でどこがスイッチなのか、極性を刻み込まねばなりません。次回(第8回)はドーピングです。
参考資料
- US 10,121,687 — Monitoring method and apparatus for control of excimer laser annealing:ELA制御のためのビームのリアルタイム監視
- US 6,071,796 — Method of controlling oxygen incorporation during crystallization of silicon film by excimer laser:結晶化中の酸素混入の制御
- US 6,881,615 B2 — Method for crystallizing semiconductor material without exposing it to air:結晶化雰囲気の管理
- "Freeform microlens array homogenizer for excimer laser beam shaping," Optics Express 24, 24846 (2016):ビーム断面を平坦化するホモジナイザーの光学設計
- "Continuous operation up to 3 kHz in a discharge-pumped XeCl excimer laser," Applied Physics B 63, 1 (1996):XeCl光源の高繰り返し連続運転——本文の処理量表の繰り返し周波数の根拠
- "Uniformity improvement of SLS poly-Si TFT AMOLED," J. Inf. Disp. 6(2), 20 (2005):明るさ不均一の周期がスキャンピッチと一致するという報告
- "Low-Temperature Poly-Si TFT by Excimer Laser Annealing," MRS Proceedings 685 (2001):ELA条件とTFT特性の関係
- "A new high-performance poly-Si TFT by simple excimer laser annealing," IEDM (2001), 34.3.1:結晶化条件の改善で素子特性を引き上げた事例
- "Excimer laser crystallization techniques for polysilicon TFTs," Applied Surface Science 154-155, 449 (2000):ELAのプロセスウィンドウと均一性の問題——本文300〜450mJ/cm²帯域の根拠
- Excimer laser — Wikipedia:エキシマレーザーのガス組み合わせ別波長——本文の波長表の根拠
- Excimer — Wikipedia:励起二量体という概念
- Moiré pattern — Wikipedia:二つの周期パターンの干渉で生じる模様