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半導体からトランジスタまで #07 — 動作領域:遮断・線形・飽和と NMOS・PMOS

2026年9月19日·閲覧 1·コメント 0

シリーズ半導体からトランジスタまで·7 / 9話

前編で電界効果トランジスタの構造を立てました。ゲートは絶縁膜の上に置かれてチャネルに触れていないのに、ゲートに電圧を加えると絶縁膜の下の表面がひっくり返り、ソースとドレインをつなぐチャネルができます。そのチャネルができ始めるゲート電圧に、しきい値電圧という名前を付けました。

そこまでがゲートのする仕事です。この編では残りの半分を見ます。チャネルを作っておいたあとにドレイン電圧を上げると電流はどう変わるのか——そしてなぜ、ある地点から先は上げても増えないのか、です。

先に答えを言えば三つに分かれます。チャネルがなければ流れません。チャネルがあれば上げた分だけ増えます。ところがある線を越えるとそれ以上上げてもそのままです。この三つの区間にはそれぞれ名前と条件式が付いています。

本文の条件値は計算の道筋を示すためのであり、特定の企業の仕様ではありません。引用した数値はいずれも公開文献で確認した値であり、出典は記事の末尾に記します。

三つの領域は二つの不等式が分ける

扱う電圧は二つです。ゲートとソースのあいだの電圧 VGS、そしてドレインとソースのあいだの電圧 VDS です。三つの領域は、この二つをそれぞれ一度ずつ比べるだけで全部分かれます。以下は電子が流れる NMOS を基準にしています。

ウィキペディアの「MOSFET」の項目は、三つの領域の条件をこう記しています。

  • 遮断(cut-off)——VGS < Vth。チャネルが作られていません。「MOSFET」の項目は、このとき「トランジスタはオフであり、ドレインとソースのあいだに伝導がない」と記述しています。
  • 線形・三極管(triode / linear)——VGS > Vth かつ VDS < (VGS − Vth)。チャネルがソースからドレインまでつながっています。「MOSFET」の項目は、この区間の素子をゲート電圧で値が決まる抵抗として記述しています。
  • 飽和(saturation)——VGS > Vth かつ VDS ≥ (VGS − Vth)。

二つの不等式のどちらにも VGS − Vth という塊が入っています。ゲート電圧がしきい値をどれだけ越えたかを測る量です。「MOSFET」の項目はこの塊にオーバードライブ電圧(overdrive voltage)Vov という名前を付けています。これ以降この記事で境界を語るときは、いつもこの値が基準になります。

ドレイン電圧に対する電流曲線——オーバードライブ電圧に応じて曲線が何本も描かれ、V_DS = V_GS − V_th という境界線を越えると電流が平らになる

線形区間——抵抗のようにふるまう

ウィキペディアの「Field-effect transistor」の項目は、この区間をこう説明しています。ドレイン電圧がゲート電圧よりずっと小さいときは、ゲート電圧を変えるとチャネルの抵抗が変わり、ドレイン電流はドレイン電圧に比例する、というものです。「Field-effect transistor」の項目は、このとき素子が可変抵抗のように動作すると記しています。

「MOSFET」の項目が載せるこの区間の電流式は次のとおりです。

ID = μn Cox (W / L) [ (VGS − Vth) VDS − VDS2 / 2 ]

記号を一つずつ解くとこうなります。

  • μn——キャリアの実効移動度です。同じ電界でキャリアがどれだけ速く引かれるかを表します。
  • Cox——ゲート絶縁膜の単位面積あたりの容量です。同じゲート電圧でチャネルにどれだけ多くの電荷を呼び集められるかを決めます。
  • W——ゲートの。電流が通る道の広さです。
  • L——ゲートの長さ。ソースからドレインまで行くべき距離です。

前編で見たとおり、ゲート絶縁膜はそれ自体がコンデンサです。ウィキペディアの「Capacitor」の項目の平行平板容量 C = ε A / d を面積で割れば単位面積あたりの値が出るので、Cox は絶縁膜の誘電率を厚さで割った値になります。絶縁膜が薄いほど Cox が大きくなり、同じ電圧でより多くの電流が流れます。

名前は線形だが完全な直線ではない

式を見ると、角括弧の中に VDS の項が一つと VDS2 の項が一つあります。後者は引き算なので、ドレイン電圧を上げるほど傾きが少しずつ寝ていきます。数字で確かめてみます。

この記事は Vth = 0.7 V の NMOS に VGS = 2.0 V を加えたと仮定して計算します。μn Cox (W / L) を一つにまとめて k と呼び、あとで出てくるチャネル長変調係数 λ は 0 としておきます。オーバードライブ電圧は Vov = 2.0 − 0.7 = 1.3 V です。

  • VDS = 0.1 V → ID = k [ 1.3 × 0.1 − 0.12 / 2 ] = k [ 0.13 − 0.005 ] = 0.125 k
  • VDS = 0.2 V → ID = k [ 0.26 − 0.02 ] = 0.240 k
  • VDS = 0.4 V → ID = k [ 0.52 − 0.08 ] = 0.440 k
  • VDS = 1.3 V → ID = k [ 1.69 − 0.845 ] = 0.845 k

0.1 V から 0.2 V へ二倍に上げたところ、電流は 1.92 倍になりました。0.2 V から 0.4 V へもう一度二倍に上げたところ、今度は 1.83 倍です。二倍を入れたのに二倍が出てきません。そしてその目減りはだんだん大きくなります。

これが同じ区間に線形三極管という二つの名前が付く理由です。ドレイン電圧がごく小さいときは VDS2 の項が無視できてほぼ直線であり、この部分を線形と呼びます。ドレイン電圧をさらに上げるとその項が育って曲線が寝ていき、この部分を三極管と呼びます。不等式は同じです。曲線の前半と後半を分けて呼んでいるだけなのです。

なぜ寝ていくのかは、チャネルの形を見ればわかります。ドレイン電圧が大きくなるほどドレイン側のチャネルが薄くなるからです。ウィキペディアの「Threshold voltage」の項目は、ドレイン電圧が正のときチャネルが細くなると記し、その理由を、抵抗性のチャネルで落ちる電圧が絶縁膜にかかる電界を減らすからだと説明しています。道が狭くなって抵抗が増えないはずがありません。

飽和区間——チャネルが切れるのに電流は流れる

ドレイン電圧を上げ続けると、薄くなっていたドレイン側のチャネルはついになくなります。「Field-effect transistor」の項目は、この状態を反転領域の形がドレイン端でピンチオフ(pinch-off、締め切れ)すると記述しています。

切れる場所は計算で出る

チャネルがあるかないかを決めるのはゲートとその地点のあいだの電圧です。ソース側の地点ではその値が VGS です。ドレイン側の端では、そこまでにすでに VDS だけ落ちているので、残るのは VGS − VDS です。これをゲート–ドレイン電圧 VGD と呼びます。

チャネルはこの値がしきい値を越えるところにしかありません。ですからドレイン端のチャネルがまさに消える瞬間の条件は VGD = Vth です。二つの式をつなぐと

VGS − VDS = Vth → VDS = VGS − Vth

先ほど領域を分けていたあの境界がそのまま出てきます。領域を分ける不等式は覚えるべき規則ではなく、チャネルがいつ切れるかを書き記したものなのです。上で仮定した値では VDS = 1.3 V がその場所です。

ドレイン電圧に応じてチャネルが均一な形からくさび形へ、さらにドレイン側が切れた形へと変わる三段階

切れたのになぜ電流が残るのか

ここで自然な疑問が湧きます。道が切れたのなら電流も切れるべきではないか、というものです。そうではありません。

「Field-effect transistor」の項目はこの点をはっきりさせています。飽和区間でゲートが作った伝導チャネルがソースとドレインをもはやつないでいなくても、キャリアの移動が塞がれるわけではないというのです。チャネルをなしていた電子は、ドレイン電圧に引かれれば空乏領域を通ってチャネルの外へ出ていくことができます。前の編で見たあの空乏領域です——動き回るキャリアがないだけで、電界が運んでいくものまで止められはしません。

「MOSFET」の項目も同じことを別の角度から述べています。チャネルが素子の全区間にわたっていなくても、ドレインとチャネルのあいだの電界が非常に高いため伝導が続くというのです。

ではなぜ電流が増えないのか。「Field-effect transistor」の項目がその理由を記しています。ドレイン電圧を上げるとドレインからピンチオフ地点までの距離が伸び、その分だけ空乏領域の抵抗が上がります。電圧が上がった分だけ抵抗も一緒に上がるので、電流はほとんどそのまま残ります。この比例関係のために、飽和区間の素子は抵抗ではなく電流源のように動作し、その電流の大きさはゲート電圧が決めます。

飽和区間の電流式

「MOSFET」の項目が載せるこの区間の式は次のとおりです。

ID = (μn Cox / 2) (W / L) [ VGS − Vth ]2 [ 1 + λ VDS ]

先の式と比べると角括弧の中から VDS が消えています。残っているのは後ろの [ 1 + λ VDS ] 一つだけで、「MOSFET」の項目は λ をチャネル長変調係数と呼び、この項こそがドレイン電圧に応じてピンチオフ地点が移っていく分を担うのだと説明しています。λ が小さければ曲線はほぼ水平になります。

二つの式が境界で食い違わないか確かめてみます。先の仮定のまま Vov = 1.3 V、λ = 0 です。

  • 線形式に VDS = 1.3 V を入れると → k [ 1.69 − 0.845 ] = 0.845 k
  • 飽和式に入れると → (k / 2) × 1.32 = (k / 2) × 1.69 = 0.845 k

同じ値です。互いに違う二つの式ですが、境界でぴたりと出会います。曲線が折れるのではなく、同じ曲線の頂点で性格が変わるのです。

付け加えると、遮断区間の電流も厳密には 0 ではありません。「MOSFET」の項目はしきい値以下の電流を ID ≈ ID0 e(VGS − Vth) / nVT と記しています。前の編のダイオードの式と同じ形で、VT も同じ熱電圧——ウィキペディアの「Boltzmann constant」の項目が 300 K で約 25.85 mV と記すあの値——です。スイッチを切ったと信じているあいだにも、ごく小さな電流が指数関数に乗って漏れています。

NMOS と PMOS——符号をひっくり返す

ここまでは電子が流れる NMOS でした。正孔が流れる PMOS は、同じ話を符号だけひっくり返して繰り返します。

「MOSFET」の項目は二つの構造をこう区別しています。n チャネル素子はソースとドレインが n+ でボディが p 型、p チャネル素子はソースとドレインが p+ でボディが n 型です。チャネルを渡るキャリアはn チャネルが電子、p チャネルが正孔です。

電圧の向きもひっくり返ります。「MOSFET」の項目は、ゲート–ソース電圧を負に加えると n 領域の表面に p チャネルができると記し、これは n チャネルの場合と同じ話を電荷と電圧の極性だけ反対にしたものだと記しています。そしてゲート電圧がしきい値より負でなくなればチャネルが消え、ごく小さなしきい値以下の電流だけが残ると記述しています。

したがって先に立てた不等式は PMOS では向きが全部反対になります。オンにする条件は VGS < Vth(Vth そのものが負です)であり、飽和に入る条件は VDS ≤ VGS − Vth です。大きさだけで見れば NMOS とまったく同じです。符号を付けたか外したかの違いです。

同じ大きさなら PMOS のほうが電流を出せない

ただし対称が完全でないところが一か所あります。移動度です。

このシリーズの第一編で見た値をもう一度取り出します。ウィキペディアの「Electron mobility」の項目の表は、結晶シリコンの移動度をこう記しています。

  • 電子 1,400 cm2/(V·s)
  • 正孔 450 cm2/(V·s)

電流式の先頭にあった μ が、まさにこの値です。ほかの条件——W、L、Cox、オーバードライブ電圧——をすべて同じにしておけば、電流の比は移動度の比そのままです。

450 ÷ 1,400 ≈ 0.32

同じ大きさで作った PMOS は、NMOS の約 1/3 しか電流を出せません。逆に同じ電流を出させるには、幅 W を 1,400 ÷ 450 ≈ 3.1 倍に広げなければなりません。

「MOSFET」の項目は、二つの素子を並べて使うスイッチを説明する中でpMOS を nMOS より二、三倍広く作ると記しています。そうして初めて両方向の速度が揃うというのです。移動度比から出た 3.1 倍と同じ範囲の数字です。

「MOSFET」の項目はその理由も一文にまとめています。電流を出す能力が同じであるべきならn チャネル素子を p チャネル素子より小さく作ることができるのであり、それは p チャネルのキャリアである正孔が n チャネルのキャリアである電子より移動度が低いからだ、というものです。

NMOS と PMOS の対比——キャリアが電子か正孔か、ゲート電圧の符号、そして結晶シリコンの移動度 1,400 対 450 が生む電流の差

まとめると PMOS は NMOS を鏡に映した素子ですが、その鏡は完全に平らではありません。物理は対称なのに材料が対称ではないからです。次の編以降で回路を扱うときに二つの素子の大きさが違う図を見たら、それは設計者の好みではなく、この表の二つの数字がそうさせたことです。

まとめ

  • 領域は二度の比較で分かれます。VGS と Vth を比べてチャネルがあるかを見て、VDS と VGS − Vth を比べてそのチャネルが端までつながっているかを見ます。
  • 線形・三極管区間で素子はゲート電圧で値が決まる抵抗です。式に VDS2 の項があるので名前とは違って完全な直線ではありません——二倍を入れると 1.9 倍、もう一度二倍を入れると 1.8 倍が出てきます。
  • 境界 VDS = VGS − Vth は覚えるべき規則ではなくVGD = Vth を書き換えたものです。ドレイン端のチャネルが消える場所です。
  • チャネルが切れても電流は切れません。キャリアは空乏領域を電界に乗って渡ります。ドレイン電圧を上げればその区間の抵抗も一緒に上がり、電流はほぼ一定のまま残ります。
  • PMOS は符号をひっくり返した NMOS です。ただし正孔の移動度が450 対 1,400 と低いので、同じ大きさなら電流はおよそ 1/3 です。

ここまでがトランジスタ一個が理想的にふるまうときの話です。次編ではこの理想が崩れる地点を見ます——素子を小さく作ってチャネルが短くなると、上の式がどこから合わなくなるのか、です。

参考資料

  • MOSFET — Wikipedia:三つの動作領域の条件式(遮断 VGS < Vth、三極管 VGS > Vth かつ VDS < VGS − Vth、飽和 VDS ≥ VGS − Vth)、二つの区間の電流式と μn・Cox・W・L・λ の定義、オーバードライブ電圧、しきい値以下の指数電流式、ピンチオフでも電界が高く伝導が続くという記述、n/p チャネルのソース・ドレイン・ボディの構成と極性反転、pMOS を nMOS より二、三倍広く作るという記述、正孔の移動度が低いため同じ駆動力なら n チャネルをより小さく作れるという記述
  • Field-effect transistor — Wikipedia:ドレイン電圧が小さいとき可変抵抗のように動作するという記述、反転領域がドレイン端でピンチオフするという記述、飽和でもキャリアが空乏領域を通って移動し、ドレイン電圧が上がるとピンチオフ地点までの距離と抵抗が一緒に上がるため電流が一定に保たれるという説明、飽和区間の素子が電流源のように動作するという記述
  • Threshold voltage — Wikipedia:しきい値電圧の定義(ソースとドレインをつなぐ伝導経路を作る最小のゲート–ソース電圧)、ドレイン電圧が正のときチャネルが細くなるという記述
  • Electron mobility — Wikipedia:結晶シリコンの移動度——電子 1,400 cm2/(V·s)、正孔 450 cm2/(V·s)
  • Capacitor — Wikipedia:平行平板コンデンサ C = ε A / d
  • Boltzmann constant — Wikipedia:熱電圧 VT = kT / q、300 K で約 25.85 mV
  • ※ 上記の一覧のうち Wikipedia の項目から引用した部分は CC BY-SA 4.0 ライセンスに従います。

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