画面を描くスイッチ、薄膜トランジスタを扱うには、その前に一つ整理しておかなければなりません。半導体とは何かです。
名前からして誤解を招きます。半導體 — 半分だけ通す物質。そのため「導体と絶縁体の中間あたりの、どっちつかずに通す物質」と理解して先へ進みがちです。ところがそう理解すると、その先が一つも説明できません。抵抗が中間の物質だというなら、ニクロム線も半導体でなければならないからです。
このシリーズは半導体という材料から出発して、トランジスタという素子まで歩いていきます。第一回は出発点です — 半導体が他の物質と正確に何が違うのか、なぜよりによってシリコンなのか、そして同じシリコンなのになぜ三つに分かれるのかを見ます。
本文の計算に登場する条件値(濃度・寸法・電圧など)は計算がどのように行われるかを示すための例であり、材料と構造もまた公開文献が記述する形です — 特定の会社の仕様や設計図ではありません。すべての内容は公開された論文・特許・百科事典で誰もが確認できる水準にとどめ、各回の末尾に出典を残します。
中間ではなく、あいだが空いている
物質がどれだけ電気を通さないかを表す値を抵抗率といい、単位には Ω·m を使います。値が大きいほど通しません。抵抗率は物質そのものの性質であり、計器で測る抵抗はそこに形が掛かった値です。ウィキペディア「Electrical resistivity and conductivity」の項目は両者の関係を R = ρ ℓ / A と記しています。ρ は抵抗率、ℓ は長さ、A は断面積です。長いほど抵抗が大きく太いほど小さくなるという、ホースを思い浮かべれば納得できる式です。
長さ 1 cm、断面 1 mm2 の棒なら、ℓ = 0.01 m、A = 10-6 m2 です。
- 銅(ρ = 1.68 × 10-8 Ω·m)→ R = 1.68 × 10-8 × 0.01 ÷ 10-6 = 1.68 × 10-4 Ω、すなわち 0.17 mΩ
- 純粋なシリコン(ρ = 2.3 × 103 Ω·m)→ R = 2.3 × 103 × 0.01 ÷ 10-6 = 2.3 × 107 Ω、すなわち 23 MΩ
同じ棒なのに一方は 0.17 mΩ、もう一方は 23 MΩ — 比で見れば1,400 億倍です。
「Electrical resistivity and conductivity」の項目の表を広く眺めると、銅や銀のような金属は 10-8 の桁に固まっており、反対の端には石英ガラスのような絶縁体が 1015~1019 の桁にあります。二つの塊のように見えますが、あいだには二十五桁がまるごと空いています。1 と 10,000,000,000,000,000,000,000,000 の差です。半導体はその空いた区間に置かれます — 「Electrical resistivity and conductivity」の項目の表で、純粋なシリコンは 20 °C において 2.3 × 103 Ω·m で、銅より 1011 倍近く通しません。
温度を上げると逆に動く
「Electrical resistivity and conductivity」の項目は、物質ごとの抵抗率温度係数も併せて載せています。温度を 1 K 上げたときに抵抗率が何パーセント動くかを表す値です。
- 銅 +4.04 × 10-3 / K、銀 +3.80 × 10-3 / K — 熱くなると抵抗が大きくなります。
- シリコン -75.0 × 10-3 / K、ゲルマニウム -48.0 × 10-3 / K — 熱くなると抵抗が小さくなります。
「Electrical resistivity and conductivity」の項目が載せている式は ρ(T) = ρ0 [ 1 + α (T − T0) ] です。基準温度 T0 における抵抗率 ρ0 に、温度が動いた分を係数 α で掛けて足します。温度を1 K だけ上げて代入してみます。
銅は 1 + 4.04 × 10-3 = 1.00404 で抵抗率が0.4% 増え、シリコンは 1 − 75.0 × 10-3 = 0.925 で7.5% 減ります。
符号が逆で、大きさも一桁以上違います。金属は温度が上がっても抵抗が少しずつ増えるだけですが、シリコンは温度を上げると目に見えてよく通す物質に変わります。ただしこの式をそのまま信じて温度を大きく上げてはいけません。「Electrical resistivity and conductivity」の項目が、この関係は近似にすぎず、基準温度のあたりの狭い区間でのみ成り立つと明言しているからです。ここで読むべきものは符号と桁です。
なぜ符号が逆なのか
金属は電子の数がすでに足りています。温度を上げても新たに増えることはなく、代わりに原子がその場でより大きく震えます。「Electrical resistivity and conductivity」の項目はこれを電子–フォノン相互作用として説明し、格子振動が電子を散乱させると記しています。道はそのままなのに障害物だけが増えるので抵抗が大きくなります。
半導体は反対側に問題があります。動く電子そのものが足りません。「Electrical resistivity and conductivity」の項目は、半導体では熱エネルギーが電子を伝導帯へ押し上げて自由に流れるようにし、その場に残った正孔も自由に流れると記しています。温度を上げれば障害物も増えますが、通行人のほうがはるかに速く増えます。そのため合わさった結果が「抵抗が減る」側に出るのです。
これが「中間」と「半導体」を分ける線です。ニクロム線は抵抗が大きいものの、温度を上げても性格は変わりません。半導体は変わります。ウィキペディア「Semiconductor」の項目も半導体を導電率が導体と絶縁体のあいだにあり、ドーピングによってその導電率を変えられる物質と定義しています。定義にすでに「変えられる」が入っています。条件によって通す度合いが変わり、その条件を人が決められる — 素子はここから始まります。
なぜよりによってシリコンなのか
半導体になれる物質はいくつもあります。ゲルマニウムも、ガリウムヒ素も半導体です。ところがシリコンが圧倒的に多く使われます。理由は原子一つにあります。
ウィキペディア「Silicon」の項目は、シリコンの原子番号を 14、電子配置を [Ne] 3s2 3p2 と記しています。原子核が電荷 +14 を帯び、14 個の電子が殻の単位でその周りを囲んだ構造です。
殻ごとに入れる電子の数は決まっています。内側の二つの殻は 2 個と 8 個で満杯であり、いちばん外側の殻は八つの席のうち四つだけが埋まっています。この外側の電子四つを価電子と呼び、「Silicon」の項目は四つが 3s 軌道と 3p 軌道の二つを占めると記し、シリコンを第 14 族の4 価元素に分類しています。
外側の殻は八つ埋まってこそ安定します。四つ足りないシリコン原子は隣と互いに一つずつ出して対を組みます。電子一対を二つの原子が共に使うこの結合が共有結合です。シリコンはこの結合を四方向に作り、「Silicon」の項目の表現どおり sp3 混成を通じた正四面体構造へとつながります。
原子がどれだけ密なのかを自分で数えてみる
正四面体結合が果てしなく続けば結晶になります。「Silicon」の項目はその結晶構造を面心ダイヤモンド立方、格子定数を 20 °C において 543.0986 pm と記しています。この構造の単位格子一つには原子が 8 個入ります。格子定数をセンチメートルに直すと 5.431 × 10-8 cm なので
原子密度 = 8 ÷ (5.431 × 10-8)3 = 8 ÷ (1.602 × 10-22) = 約 5.0 × 1022 個/cm3
ウィキペディア「Doping (semiconductor)」の項目が真性結晶シリコンの原子密度として記している値が約 5 × 1022 atoms/cm3です。格子の一辺の長さから出発した計算が文献の値と合致します。この数は次回にも再び出てきます。
だから純粋なシリコンはあまり通さない
初めて聞く人がいちばんよくつまずくのがここです。純粋な半導体は電気がほとんど通りません。結晶全体が共有結合で隙間なくつながっていれば、電子はすべて結合に縛られて自分の持ち場を守ります。先ほど見た 2.3 × 103 Ω·m がその状態です。
ただし完全にゼロではありません。常温の熱が結合をいくつか切って電子を解き放つからです。その数がどれほどで、なぜ温度を上げると急激に増えるのかは、次回にエネルギー帯で扱います。
シリコンが選ばれた理由もここにあります。ウィキペディア「List of semiconductor materials」の項目は、シリコンのバンドギャップを 1.12 eV と記しています。バンドギャップは結合を切って電子を解き放つのにかかる閾エネルギーだと見ればよいでしょう。「List of semiconductor materials」の項目が載せている他の材料と並べて置けば、1.12 eV がどのあたりなのかが見えてきます。
- ゲルマニウム 0.67 eV(間接)、シリコン 1.12 eV(間接)、ガリウムヒ素 1.42 eV(直接)
- ダイヤモンド 5.47 eV(間接) — シリコンの五倍近く広いです。
シリコンの 1.12 eV は常温において絶妙です — 熱だけではほとんど通さず、しかし手を加えれば大きく変わる程度にだけ狭いのです。ゲルマニウムは 0.67 eV とさらに狭く、常温でも漏れる電流が多くなります。抵抗率の表でもゲルマニウムは 4.6 × 10-1 Ω·m で、シリコンより5,000 倍もよく通します — 塞ぐべきときに塞げないという意味です。逆にダイヤモンドは 5.47 eV なので、常温の熱では何も起こりません。
バンドギャップのほかにも理由がある
強みはバンドギャップ一つではありません。「Silicon」の項目が記している性質が三つ並びます。
- ありふれている — 「Silicon」の項目は、シリコンが地殻の27.2%を重量で占め、45.5% の酸素に次いで多いと記しています。原料は砂のようなものです。
- 融点が高い — 1687 K(1414 °C)です。素子を作る工程の大半は高い温度を通りますが、そのあいだ形を失いません。
- 自ら良い絶縁膜を作る — 「Silicon」の項目は、シリコンが表面に薄く連続した二酸化ケイ素(SiO2)の層を作り、その下を酸化から守ると記しています。900 °C 以下では空気と反応しません。
最後の項目がとりわけ重要です。素子には通す部分と塞ぐ部分の両方が必要ですが、シリコンは塞ぐ側の材料を自分の表面から得ます。
同じシリコンなのに三つある
シリコンの話でよく抜け落ちるものがもう一つあります。同じシリコンでも、どう固まったかによってまったく別の物質のように振る舞います。この区別が薄膜トランジスタの話の骨格になります。
- 単結晶(single crystal) — 原子が端から端まで同じ規則で並んでいます。コンピュータのチップを削り出すウェハがこれです。
- 多結晶(polycrystalline) — ウィキペディア「Crystallite」の項目は、多結晶固体を大きさと方位がまちまちな結晶粒の集まりと記述しています。粒の中は整っていますが、粒どうしはずれています。
- 非晶質(amorphous) — 規則がありません。ウィキペディア「Amorphous silicon」の項目は、長距離秩序がなく原子が連続ランダム網目を成すと記述しています。
ずれた場所で何が起きているのか
多結晶の場合、「Crystallite」の項目は方位の異なる結晶が出会う界面を結晶粒界(grain boundary)と呼び、その領域に格子の位置から乱れた原子と転位、そこへ移ってきた不純物が集まっていると記述しています。粒の中は単結晶と変わりませんが、粒のあいだにはこうした雑然とした帯が横たわっています。ウィキペディア「Polycrystalline silicon」の項目は、多結晶シリコンの抵抗率・移動度が結晶粒の大きさに強く左右されると記し、再結合が結晶粒界でより多く起きると記述しています。
非晶質は欠陥が境界だけにあるのではなく全体に散らばっています。「Amorphous silicon」の項目は、無秩序な構造のせいで相手を見つけられなかった結合、すなわち未結合手(dangling bond)が生じ、これが異常な電気的振る舞いを引き起こしうると記述しています。解決策も併せて記されています — 水素が未結合手に付いて欠陥密度を何桁も下げてくれるというものです。この材料を水素化非晶質シリコン(a-Si:H)と呼びます。
差は速度となって現れる
この差は電子の速度となって現れます。その値が移動度で、単位は cm2/(V·s) です。ウィキペディア「Electron mobility」の項目は、移動度を vd = μe E、すなわち電場 E をかけたときに生じるドリフト速度 vd と E の比として定義しています。
「Electron mobility」の項目の移動度の表は、結晶シリコンの電子移動度を 1,400、正孔移動度を 450 と記しています。「Electron mobility」の項目の表では、多結晶シリコンが 100、非晶質シリコンが約 1 です。
定義式があるので、この数を速度に直してみることができます。電場を 1 V/cm かけると結晶シリコンの電子は v = 1,400 × 1 = 1,400 cm/s、すなわち毎秒 14 m で押されていきます。同じ電場で非晶質シリコンの電子は 1 cm/s です。
1,400 と 1 です。成分はまったく同じシリコンなのに千倍を超える差がつきます。並びが乱れるほど、電子は進む途中でしきりに向きを折られます。「Electron mobility」の項目は、移動度を下げる散乱を格子振動によるフォノン散乱とイオン化した不純物による不純物散乱に分け、ドーピング濃度を上げるほど移動度が下がると記しています。よく通すために入れた不純物が、今度は速度を削るのです。
ところが並びの悪い非晶質シリコンが、実際にはいちばん多く使われた時期がありました。理由の半分は「Amorphous silicon」の項目に記されています — 非晶質シリコンは75 °C ほどの低い温度でも堆積でき、ガラスだけでなくプラスチックや紙の上にも載せられるというものです。先ほど見た融点 1414 °C を思えば事情ははっきりします。単結晶を得るには材料を溶かして固めなければならず、ガラスはその温度に耐えられません。遅い材料を選んだのではなく、ガラスの上に載せられる材料がそれしかなかったのです。
まとめ
- 半導体は抵抗が中間の物質ではありません。温度を上げると金属とは逆に抵抗が小さくなります — 金属は障害物だけが増え、半導体は通行人が増えるからです。
- シリコンは外側の殻に四つの席が空いており、隣の四つと共有結合で結ばれます。そのため純粋だとかえって電気がほとんど通りません。格子定数 543.1 pm から計算した原子密度は5.0 × 1022 個/cm3です。
- バンドギャップ 1.12 eV が「熱だけでは通さないが手を加えれば変わる」幅を作ります。ゲルマニウムの 0.67 eV は狭すぎ、ダイヤモンドの 5.47 eV は広すぎます。ここに地殻の27.2%という豊富さ、高い融点、自ら育つ二酸化ケイ素の絶縁膜が加わります。
- 同じシリコンも単結晶・多結晶・非晶質に分かれ、電子移動度は 1,400 対 100 対約 1 です。多結晶は結晶粒界が、非晶質は未結合手がその差を作ります。
次回は「なぜ温度を上げると通るのか」をきちんと説明する道具を持ってきます — エネルギー帯とバンドギャップ、そして不純物を入れて性格を変えるドーピングです。
参考資料
- Electrical resistivity and conductivity — Wikipedia :R = ρℓ/A、温度依存式 ρ(T) = ρ0[1 + α(T − T0)] が狭い区間でのみ成り立つ近似であるという記述、金属の電子–フォノン散乱と半導体のキャリア増加、20 °C の抵抗率・温度係数 — シリコン 2.3 × 103 Ω·m / -75.0 × 10-3/K、ゲルマニウム 4.6 × 10-1 / -48.0 × 10-3、銅 1.68 × 10-8 / +4.04 × 10-3、銀 1.59 × 10-8 / +3.80 × 10-3
- Semiconductor — Wikipedia :導体と絶縁体のあいだの導電率をドーピングで変えられるという定義、温度を上げると金属とは逆に導電率が良くなるという記述
- Silicon — Wikipedia :[Ne] 3s2 3p2 と価電子 4 個、sp3 正四面体結合、面心ダイヤモンド立方と格子定数 543.0986 pm(20 °C)、地殻内 27.2%、融点 1687 K、表面の SiO2 保護膜
- List of semiconductor materials — Wikipedia :バンドギャップ — シリコン 1.12・ゲルマニウム 0.67・ガリウムヒ素 1.42・ダイヤモンド 5.47 eV
- Electron mobility — Wikipedia :vd = μeE、フォノン散乱・不純物散乱、移動度 — 結晶シリコン 1,400/450、多結晶 100、非晶質 約 1 cm2/(V·s)
- Crystallite — Wikipedia :多結晶固体の定義と、結晶粒界に乱れた原子・転位・不純物が集まるという記述
- Polycrystalline silicon — Wikipedia :抵抗率・移動度が結晶粒の大きさに左右され、再結合が結晶粒界で多いという記述
- Amorphous silicon — Wikipedia :連続ランダム網目、未結合手と水素パッシベーション、75 °C の低温堆積とガラス・プラスチック・紙の基板
- Doping (semiconductor) — Wikipedia :真性結晶シリコンの原子密度 約 5 × 1022 atoms/cm3
- Semiconductors — LibreTexts :導体 10-8~10-6、石英のような絶縁体 1015~1019 Ω·m
- ※ 上記の一覧のうち Wikipedia の項目から引用した部分は CC BY-SA 4.0 ライセンスに従います。