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半導体からトランジスタまで #04 — ダイオードとコンデンサ:一つの接合から生まれる二つの部品

2026年9月12日·閲覧 33·コメント 0

シリーズ半導体からトランジスタまで·4 / 9話

前回は PN 接合を一つ作り、二つのことを確認しました — 順方向では電流が流れ逆方向では止まるということ、そして空乏層の厚さがかけた電圧によって変わるということです。

この二つの事実から、互いにまるで違って見える部品が一つずつ生まれます。ダイオードコンデンサです。この回はその二つの分かれ道をたどります。そして最後に、二つが画面の中の画素一つでどう出会うのかを見ます。

本文の条件値は原理を示すためのであり、特定の会社の仕様ではありません。引用した数値と記述はすべて公開文献で確認したもので、出典は文末に残します。

ダイオード — 向きを選り分ける部品

PN 接合の電流を電圧に対して描くと、左右がまるで違う曲線になります。左(逆方向)は床に貼りつき、右(順方向)はある地点から垂直に近く跳ね上がります

ウィキペディア「Diode」の項目が載せている順方向しきい値電圧の表を見ると

  • シリコン p–n 接合 0.6 ~ 0.7 V
  • ゲルマニウム p–n 接合 0.25 ~ 0.3 V

回路を扱う人たちが「シリコンダイオードは 0.7 V」と覚えている値です。

「しきい値で急に点く」というのは錯覚だ

曲線を見ると 0.7 V でスイッチがパチンと入るように見えます。ところが式はそうではありません。

ウィキペディア「Shockley diode equation」の項目は、ダイオード電流をこう記しています。

I = IS ( eV / nVT − 1 )

IS は逆方向飽和電流、n は理想係数、VT熱電圧です。指数が入っているだけでどこにもしきい値がありません。電流は 0 から跳ね上がるのではなく、電圧に対してずっと指数的に増え続けています。

なぜそれほど急に見えるのかは VT の大きさが説明します。ウィキペディア「Thermal voltage」の項目は、300 K で VT約 25.852 mV だと記しています。前回計算した kT 0.0259 eV と同じ値です — 同じ量を電圧の単位で書いたものだからです。

この小さな値が指数の分母にあります。電圧が 0.0259 V 上がるたびに指数が 1 ずつ増え、電流は約 2.7 倍になります。

電流が十倍になるには指数が ln 10 = 2.303 だけ増えなければならないので、必要な電圧は

2.303 × 25.852 mV = 約 59.5 mV

すなわち60 mV ごとに電流が十倍です。この回でいちばんよく使う概算値です。

数字を入れて曲線を描いてみる

実際に入れてみます。この記事は IS = 1 × 10-12 A、n = 1 と仮定して計算します — 計算の過程を示すための例の値であって、特定の部品の値ではありません。「Shockley diode equation」の項目は理想係数 n が 1 から 2 のあいだだと記しているので、n = 1 はその下の端です。

もう一つ落とせるものがあります。「Shockley diode equation」の項目は、順方向電圧がある程度になると指数項が 1 よりはるかに大きくなるので式の −1 を無視できると記しています。そうすると I ≈ IS eV/VT だけが残ります。電圧を 0.1 V ずつ上げながら代入すると

  • 0.4 V → 指数 15.5、e15.5 ≈ 5.2 × 106 → I ≈ 5.2 μA
  • 0.5 V → 指数 19.3、e19.3 ≈ 2.5 × 108 → I ≈ 0.25 mA
  • 0.6 V → 指数 23.2、e23.2 ≈ 1.2 × 1010 → I ≈ 12 mA
  • 0.7 V → 指数 27.1、e27.1 ≈ 5.7 × 1011 → I ≈ 0.57 A

0.4 V から 0.7 V まで 0.3 V 上げるあいだに、電流は 5.2 μA から 0.57 A へと11 万倍になりました。先ほどの概算値でも 0.3 V ÷ 59.5 mV ≈ 5、すなわち五桁なので 10 万倍 — 合致します。

これでなぜしきい値のように見えるのかがはっきりします。この曲線を縦軸 0~1 A の目盛の上に描くとしましょう。0.5 V の 0.25 mA は目盛の4,000 分の 1 なので線の太さの中に埋もれ、0.4 V 以下は床に貼りついて見えます。そこへ 0.6 V と 0.7 V で急にそそり立ちます。素子が急に点いたのではなく、その手前が目に見えなかっただけです。「Diode」の項目も、縦軸を対数に変えて描くとひざが消え、その区間に特別なものがないことが明らかになると記しています。

逆方向ではなぜ値が止まるのか

ショックレー式に負の数を入れると反対側の話が出てきます。V = −1 V なら指数は −38.7 であり、e-38.7 は 10-17 の水準なので事実上 0 です。括弧の中は (0 − 1) = −1 だけが残り

I ≈ −IS = −1 pA

−2 V、−5 V とさらに下げても指数項はすでに 0 なので結果は変わりません。電圧を上げても電流が増えないこと、これが前回述べた「逆方向飽和」の意味です。

ただし IS は固定された定数ではありません。「Shockley diode equation」の項目は、IS が温度によって変わり、その変化が VT の変化より大きいため、温度が上がると同じ電流を流すのに必要な電圧はむしろ低くなると記しています。「Diode」の項目も、マイクロアンペアの範囲にある逆方向電流が温度が十分に高くなればミリアンペア以上まで上がりうると記述しています。

この左右の非対称こそがダイオードの使い道そのものです。「Diode」の項目は、一方向にだけ流れるこの性質が交流を直流に変えるのに使われ、それを整流(rectification)と呼ぶと記しています。

表でゲルマニウムのしきい値が低いのも同じ話です。バンドギャップが狭く、同じ電圧ではるかに多くの電流が流れるので目盛に早く現れます。ところが同じ理由で逆方向の漏れも大きいのです。しきい値を下げることと漏れを減らすことは、常に互いに引き換えにしなければならない関係です。

ダイオードの電流–電圧曲線 — 逆方向は漏れ電流だけが流れ、順方向はシリコンで 0.6~0.7 V から指数的にそそり立つ

コンデンサ — 止める層を逆に使う

今度は反対側です。逆方向にかけて電流を止めたとき、その素子は何になっているのでしょうか。

コンデンサは電気を蓄えておく部品です。いちばん単純な形は金属板二枚のあいだに通さない物質を挟んだものです。ウィキペディア「Capacitor」の項目は容量を C = Q / V、すなわち二つの導体に載った電荷 Q とそのあいだの電圧 V の比として定義します。同じ電圧でより多くの電荷を蓄えれば容量が大きいのです。

板が平らで並んでいれば容量は形が決めます。「Capacitor」の項目は、平行板コンデンサの容量をこう記しています。

C = ε A / d

ε は挟んだ物質の誘電率、A は向かい合う面積、d は間隔です。「Capacitor」の項目は、誘電率が高く、面積が広く、間隔が狭いほど容量が大きくなると記述しています。間隔が分母にあるという点を覚えておいてください。

逆方向の PN 接合をもう一度見てみましょう。

  • P 型の領域 — 正孔が多く電気を通します。板の一枚です。
  • N 型の領域 — 電子が多く電気を通します。もう一枚の板です。
  • そのあいだの空乏層 — 移動できるキャリアがなく通しません。挟み込まれた誘電体です。

形がまさに平行板コンデンサです。電流を止めようとしてできた層が、そのまま誘電体の役を務めます。この容量を接合容量と呼びます。

電圧で容量を変える

ここで前回の最後の一文が生きてきます。空乏層の厚さは (Vbi − V) の平方根に比例していました。その厚さがここでは d です。

逆方向電圧を大きくすると d が大きくなります。d は分母なので容量は小さくなります。ウィキペディア「Varicap」の項目はこれを二文にまとめています — 逆方向バイアスの大きさが空乏領域の厚さと接合容量を制御し、容量は印加電圧の平方根に反比例するというものです。

電圧で値を変えられるコンデンサなら部品になります。「Varicap」の項目はバラクタ(バリキャップ)ダイオードを、逆方向 PN 接合の電圧依存容量を利用するよう設計されたダイオードと定義しています。ラジオの周波数をつまみの代わりに電圧で合わせる回路がこれを使います。

数値を入れてみると pF の単位が出てくる

前回、空乏層の厚さを実際に計算しました。何もかけていないときが 430 nm、逆方向 5 V で 1,215 nm でした。その値をここの d の場所にそのまま入れれば容量が出ます。

誘電率は ε = εr ε0 です。ウィキペディア「Relative permittivity」の項目のシリコンの比誘電率 11.68 に ε0 = 8.854 × 10-12 F/m を掛けると

ε = 11.68 × 8.854 × 10-12 = 1.03 × 10-10 F/m

面積は100 μm 角、すなわち A = 10-8 m2 と仮定します。では代入します。

  • 電圧をかけていないとき → C = 1.03 × 10-10 × 10-8 ÷ (4.3 × 10-7) = 2.4 pF
  • 逆方向 5 V → C = 1.03 × 10-10 × 10-8 ÷ (1.215 × 10-6) = 0.85 pF

「Varicap」の項目が初期のバリキャップの容量範囲として記した 1~10 pF に収まる値です。100 μm 角でこれだけの容量が出るのは、d がナノメートルの単位だからです。

容量を半分にするにはどれだけかければよいでしょうか。d が二倍でなければならず、d は (Vbi − V) の平方根なので括弧の中が四倍にならなければなりません。

Vbi − V = 4 × 0.716 = 2.864 → V = 0.716 − 2.864 = −2.15 V

逆方向 2.15 V で容量が半分に減ります。「Varicap」の項目はこの性質を使う回路として電圧制御発振器と周波数シンセサイザを挙げ、ラジオ・テレビ・携帯電話の周波数を合わせるのに使われると記しています。

使わなくてもついてくる

裏返せばもっと重要な事実になります。接合があるところには、望まなくてもコンデンサができます。

スイッチを入れたり切ったりするたびに、この容量を満たして空にしなければなりません。その時間がすなわち遅延です。

どれくらいかかるかも計算できます。「Capacitor」の項目は、抵抗を通して充電するとき電圧が V(t) = V0(1 − e−t/τ) に従い、τ = RC がその時定数だと記しています。2.4 pF に配線抵抗を 1 kΩ と仮定すると

τ = 103 × 2.4 × 10-12 = 2.4 × 10-9 s、すなわち 2.4 ns

目標電圧の 99% まで満ちるには e−t/τ が 0.01 にならなければならないので t = τ × ln 100 = 4.6τ、すなわち約 11 ns かかります。素子を速くする仕事のかなりの部分が、性能を上げることではなくこの付いてくる容量を減らすことである理由です。

蓄える側から見れば同じ容量が資産です。「Capacitor」の項目が記す蓄積エネルギー W = ½ C V2 に 2.4 pF と 5 V を入れると 3.0 × 10-11 J、すなわち 30 pJ です。同じ部品が信号を遅らせる荷でもあり、値をつかまえておく器でもあります。

材料の選択もここにかかっています。「Relative permittivity」の項目の表はシリコンの比誘電率を 11.68、二酸化ケイ素を 3.9 と記しています。三倍の差です。蓄えたい場所には誘電率の大きい材料を、付いてくる容量を減らしたい場所には小さい材料を使います。

平行板コンデンサ C = εA/d と逆方向 PN 接合の対応 — P 型と N 型が板、空乏層が誘電体になり、逆方向電圧が間隔を決める

画面の中の画素で二つが出会う

ここまで来た部品がどこにあるのかを一つだけ見て終えましょう。液晶画面の画素一つです。

画面は行の単位で描かれます。ウィキペディア「Thin-film-transistor liquid-crystal display」の項目は、画素が行と列で番地指定され、数百万の接続を数千に減らし、行と列の配線が画素ごとに一つずつ付いたトランジスタスイッチにつながると記述しています。ゲート配線が一行のスイッチを一度に開くと、データ配線に載ってきた明るさの値がその行の画素へ入ります。そしてスイッチが閉じます。

問題はその次です。スイッチが閉じたあと次の番が回ってくるまで画素は外と切れており、そのあいだ明るさを保つには値をどこかに蓄えておかなければなりません

その時間がどれくらいなのかから見てみます。ウィキペディア「Refresh rate」の項目はリフレッシュレートを画面が 1 秒に何回新しい映像を表示するかと定義し、液晶モニタが毎秒 60 フレームに固定される場合が多いと記しています。60 で割れば 1 フレームは約 16.7 ms であり、画素一つはそのあいだ独りで値をつかまえていなければなりません。

液晶層そのものが二つの電極のあいだにあるので、それもコンデンサです。「Refresh rate」の項目は、ブラウン管と違って液晶画面の画素は電源が供給されているかぎり状態を保つと記しています。しかしそれだけでは蓄える量が足りません。閉じたスイッチでもごく小さな漏れ電流が流れ、蓄えられた電荷が少しずつ抜けて明るさがかすんでいくからです。

どれだけかすむかは先ほどの C = Q/V を裏返せば出ます。電荷が ΔQ だけ抜ければ電圧は ΔQ/C だけ下がり、漏れ電流 I が Δt のあいだ流れれば ΔQ = I·Δt なので

ΔV = I × Δt ÷ C

漏れ電流を 1 pA と仮定し、容量は先ほど計算した 2.4 pF とします(どちらも計算を示すための例の値です)。

ΔV = 10-12 × 16.7 × 10-3 ÷ (2.4 × 10-12) = 約 7 mV

1 フレームのあいだに 7 mV が流れ落ちます。容量が 10 分の 1 の 0.24 pF しかなければ、同じ計算で 70 mV 抜けます。分母に C があるからです。蓄える器が大きいほど、同じ量が漏れても目盛の動きは小さくなります。

そこでコンデンサを一つ足します。IntechOpen に載ったアクティブマトリクス液晶ディスプレイの解説(DOI 10.5772/9686)は画素の等価回路を説明し、蓄積コンデンサが液晶画素容量に並列に接続されると記述しています。

まとめると画素一つはこうです。

  • スイッチ — いつ書くかを決めます。これが薄膜トランジスタです。
  • コンデンサ — 書いた値を次の番までつかまえておきます。

「Thin-film-transistor liquid-crystal display」の項目は、トランジスタが一方向にだけ電流を通す性質のおかげで、画素に載った電荷がリフレッシュのあいだに抜けていかないとも記しています。いままで扱ってきたダイオードの一方向の性質が画面の中でしている仕事がそれです。そしてそのスイッチを作る材料として非晶質シリコン薄膜トランジスタがもっとも広く使われていると記述しています — 第 1 回で移動度が約 1 しかないといわれたあの材料です。

これまで見てきた原理がすべてこの小さな四角の中に入っています。接合があり、空乏層があり、漏れ電流があり、電荷を蓄える層があります。

液晶画素の等価回路 — ゲート配線が TFT を開いて明るさの値を書き、蓄積コンデンサと液晶容量が次の番までその値をつかまえておく

まとめ

  • ダイオードの電流にしきい値はありません。指数関数であるだけで、分母の熱電圧が約 25.852 mV と小さく60 mV ごとに十倍に増えるためしきい値のように見えます。シリコンの見かけのしきい値は 0.6~0.7 V です。
  • 例の値を入れると 0.4 V で 5.2 μA、0.7 V で 0.57 A と11 万倍の差がつきます。目盛がその手前を見せられないだけです。
  • 逆方向の接合はコンデンサです。P 型・N 型が板、空乏層が誘電体であり、容量は C = εA/d に従います。
  • 逆方向電圧が間隔を決めるので電圧で容量が調節されます — それだけを使う部品がバラクタダイオードです。
  • 前回の空乏幅 430 nm と 100 μm 角を入れると接合容量は 2.4 pF、逆方向 5 V で 0.85 pF になります。容量を半分にするのに必要な逆方向電圧は 2.15 V です。
  • 逆に、接合があるところには望まない容量が付いてき、それが素子の速度を制限します。2.4 pF に 1 kΩ なら τ = RC = 2.4 ns、99% まで満ちるのに約 11 ns かかります。
  • 液晶の画素一つはスイッチ一つとコンデンサから成ります。

ここまでがこのシリーズの前半です。材料から出発し、接合を経て部品まで来ました。次は端子が二つではなく三つの素子 — 流れを点けたり消したりするのではなく調節するトランジスタへ進みます。

参考資料

  • Diode — Wikipedia :順方向しきい値電圧 — シリコン p–n 0.6~0.7 V、ゲルマニウム p–n 0.25~0.3 V、縦軸を対数で描くとひざが消えるという記述、一方向特性が整流だという記述、逆方向電流が高温でミリアンペア以上まで大きくなるという記述
  • Shockley diode equation — Wikipedia :ID = IS(eVD/nVT − 1) と各項の定義、理想係数 n が 1~2 だという記述、順方向で −1 を無視できるという記述、IS が温度によって VT より大きく変わるという記述
  • Thermal voltage — Wikipedia :VT = kT/q の定義、300 K で約 25.85 mV
  • Capacitor — Wikipedia :C = Q/V、平行板 C = εA/d と高い誘電率・広い面積・狭い間隔で容量が最大になるという記述、蓄積エネルギー W = ½CV2、時定数 τ = RC と充電の式 V(t) = V0(1 − e−t/τ)
  • Varicap — Wikipedia :逆方向バイアスが空乏の厚さと接合容量を制御し容量が印加電圧の平方根に反比例するという記述、バラクタの定義、初期のバリキャップの容量 約 1~10 pF、電圧制御発振器・周波数シンセサイザの用途
  • Depletion region — Wikipedia :空乏幅が (Vbi − V) の平方根に比例するという関係式 — 容量計算に使った厚さの出典
  • Relative permittivity — Wikipedia :比誘電率の表 — シリコン 11.68、二酸化ケイ素 3.9
  • Refresh rate — Wikipedia :リフレッシュレートの定義、液晶モニタがおおむね毎秒 60 フレームに固定されるという記述、液晶の画素が電源が供給されているかぎり状態を保つという記述
  • Thin-film-transistor liquid-crystal display — Wikipedia :行・列の番地指定と画素ごとに付くトランジスタスイッチ、トランジスタの一方向特性がリフレッシュのあいだの電荷の失われを防ぐという記述、非晶質シリコン TFT がもっとも広く使われているという記述
  • Active-Matrix Liquid Crystal Displays, IntechOpen (DOI 10.5772/9686) :画素の等価回路で蓄積コンデンサが液晶画素容量に並列に接続されるという記述
  • ※ 上記の一覧のうち Wikipedia の項目から引用した部分は CC BY-SA 4.0 ライセンスに従います。

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