トランジスタを一つ手に入れたとしましょう。良い素子か悪い素子か、どうやって見分ければよいのでしょうか。
答えは一枚の曲線です。ゲート電圧をゆっくり掃引しながら流れる電流を記録すると曲線が描かれ、その一枚の曲線から素子の性格を語る四つの数字が得られます。今回はその曲線の読み方です。
本文の計算に登場する条件値は、計算がどのように行われるかを示すための例です。
伝達特性曲線 —— 取っ手を回しながら水を量る
測定は単純です。ドレインに一定の電圧をかけておき、ゲート電圧(VG)だけをゆっくり変えながらドレイン電流(ID)を記録します。蛇口の取っ手を少しずつ回しながら出てくる水の量を量るのと同じです。こうして得られたVG–ID曲線を伝達特性曲線(transfer curve)と呼びます。
ところがこの曲線は、縦軸を対数目盛で描きます。理由は、電流の範囲が途方もなく広いからです。オフ状態の電流はピコアンペア(10⁻¹² A)程度で、オン状態はマイクロアンペア(10⁻⁶ A)程度と、百万倍以上の差があります。これを線形目盛で描くと、オフ側は底に張り付いた直線に見えて、何の情報も読み取れません。
そのため実際には、同じデータを対数軸と線形軸で重ねて描きます。対数軸はオフ側とオンになる過程を、線形軸は十分にオンになった後の傾きを見せてくれます。二つの軸がそれぞれ別の数字を出してくれるからです。
一つ目の数字 —— しきい値電圧
しきい値電圧(Vth)は、素子が「本格的にオンになり始める」ゲート電圧です。前回見たように、最初に集まった電子は欠陥の場所に捕まり、その水たまりがある程度満たされてから初めて電流がきちんと流れます。
しきい値電圧が重要なのは、回路がその値を前提に設計されるからです。画面ではすべての画素が同じゲート電圧を受けますが、素子ごとにしきい値電圧が違えば同じ電圧で異なる電流が流れ、その差が輝度のムラとして見えます。
ただし、この数字には落とし穴があります —— 測り方によって値が変わるのです。曲線には「ここからオン」と印された点がないからです。この問題だけを取り出して第05回で扱います。
二つ目の数字 —— サブスレッショルドスイング
曲線にはオフ状態とオン状態をつなぐ区間、すなわちしきい値電圧より下の急峻な部分があります。この区間がどれだけ急かを表す値がサブスレッショルドスイング(SS、subthreshold swing)です。
定義は逆向きです —— 傾きではなく、電流を十倍にするのに必要なゲート電圧です。
SS = ΔVG ÷ Δ(log₁₀ ID) [単位 V/decade]
値は小さいほど良いです。電圧を少し上げるだけで電流がぐっと増えるという意味なので、スイッチがきびきびとオン・オフします。
理論的な下限がある —— 自分で計算してみる
この値には、どれほど良い素子でも超えられない下限があります。電子がエネルギー障壁を越える確率が温度によって指数関数的に決まるためで、その結果、室温での下限は(kT/q) × ln10として計算されます。
定数を入れてみます。ボルツマン定数k = 1.3806 × 10⁻²³ J/K、絶対温度T = 300 K、電子の電荷量q = 1.602 × 10⁻¹⁹ Cです。
kT/q = (1.3806 × 10⁻²³ × 300) ÷ 1.602 × 10⁻¹⁹ = 4.142 × 10⁻²¹ ÷ 1.602 × 10⁻¹⁹ ≈ 0.02585 V
これに自然対数と常用対数をつなぐ係数ln10 = 2.3026を掛けると
SS最小 = 0.02585 V × 2.3026 ≈ 0.0595 V/decade = 約59.5 mV/decade
室温ではどんな電界効果トランジスタも約60 mV/decadeより急にはなれないという意味です。この値は材料や設計と無関係に温度が決めます。そのため実際の素子のSSを見るときは「60からどれだけ離れたか」を見ます —— その超過分がそのまま欠陥がどれだけ多いかを語ります。
実際の値の例として、Kamiya・Nomura・Hosonoの2010年のレビューは、a-IGZO TFTのS値として約100 meV/decadeを示しています。理論下限の1.7倍程度まで近づいているわけです。
三つ目の数字 —— 移動度
移動度(mobility、μ)は、電界をかけたときに電子がどれだけよく引っ張られるかを表し、単位はcm²V⁻¹s⁻¹です。第01回で見たように、この値が画面の解像度・リフレッシュレートを制限します。
注意すべき点は、移動度が一つの数字ではないことです。どの区間からどのように抽出するかによって、名前と値が分かれます。
- 電界効果移動度(μFE) —— 線形領域で曲線の傾き(相互コンダクタンス)から抽出します。
- 飽和移動度(μsat) —— 飽和領域で√ID対VGの直線の傾きから抽出します。
同じ素子なのに、値が違って出ます。先に引用したKamiyaらの2010年のレビューを見るだけでも、a-IGZO TFTの飽和移動度を8.2~12.6 cm²V⁻¹s⁻¹、電界効果移動度を最大18 cm²V⁻¹s⁻¹と別々に記しています。
さらにTFTの移動度はゲート電圧によって変わります。電子を多く集めるほど欠陥の水たまりが埋まり、残りの電子がより自由に動けるからです。Kimuraらが2010年にApplied Physics Lettersに報告した研究はこの問題を正面から扱っており、論文自ら「異なる膜に異なる移動度モデルが適用されてきた」と問題を提起し、電界効果法と容量–電圧法を併用して普遍的な移動度モデルを得たと報告しています。そして、異なる熱処理を経たa-IGZO TFTの特性が、同じ移動度モデルに欠陥密度だけを変えて入れることで再現されると記しています。
まとめると —— 移動度の数字を見るときは、どの方法でどの条件で抽出したかを一緒に見なければなりません。条件なしに移動度だけを比べるのは意味が薄いのです。
四つ目の数字 —— オンオフ電流比
オンオフ比(Ion/Ioff)は、オン時の電流をオフ時の電流で割った値です。スイッチがどれだけ確実に閉じるかを表します。
画面でこの値がなぜ重要かは、画素の動作を考えれば明らかです。画素は一度充電された電圧を次の順番が来るまで保持しなければなりませんが、その間にトランジスタが少しずつ漏れると電圧が流れ落ちて明るさが変わります。オフ電流が小さいほど長く持ちこたえます。
先に引用したKamiyaらの2010年のレビューは、a-IGZO TFTのオンオフ比が10⁹を超えると報告しています。オン電流がオフ電流の10億倍という意味です。
この数字がなぜそれほど大きくなければならないかは、簡単な計算で分かります。画素容量を0.5 pF、許容できる電圧降下を0.1 V、保持すべき時間を60 Hzの1フレームである16.7 msとすると(いずれも計算を示すための例示値です)、許容される漏れ電流は
I = C × ΔV ÷ t = 0.5 pF × 0.1 V ÷ 16.7 ms = 5 × 10⁻¹⁴ ÷ 1.67 × 10⁻² ≈ 3 × 10⁻¹² A = 約3 pA
です。オン電流がマイクロアンペア程度なら、必要なオンオフ比はおよそ10⁻⁶ ÷ 3 × 10⁻¹² ≈ 3 × 10⁵以上です。ここでリフレッシュレートを60 Hzではなく1 Hzまで下げようとすると保持時間が60倍に延びるので、要求されるオンオフ比もそれだけ大きくなります —— 低いリフレッシュレートで電力を節約しようとする試みがなぜオフ電流が特に小さい材料を必要とするのかが、ここから出てきます。
曲線が寝るということ
四つの数字をそれぞれ見てきましたが、実際に曲線を読むときは形の変化のほうが多くを語ってくれます。
| 曲線の変化 | 何を意味するか |
|---|---|
| 曲線全体が横に平行移動 | しきい値電圧だけが変わった —— どこかに電荷が捕まった |
| しきい値以下の区間が寝る(SS増加) | 欠陥の場所が新たに生じた |
| オン側の傾きが緩やかになる | 移動度が落ちたか、接触抵抗が大きくなった |
| オフ電流が持ち上がる | チャネルが完全に閉じない —— 光や欠陥による漏れ |
この区別がなぜ重要かは第3部で明らかになります。同じ「特性が悪くなった」でも、原因が電荷捕獲か欠陥生成かによって回復するかしないかが分かれるからです。
実際の報告を一つ先取りして引用すると、CrossとDe Souzaが2006年にApplied Physics Lettersに載せたZnO TFTの安定性研究は、二つのことを並べて観察しています —— 低いバイアスストレスではしきい値以下の特性が変わらず曲線が横に移動するだけなのに対し、より高いバイアスとより長い時間ではしきい値以下の傾きが劣化するというものです。論文は前者をチャネル/絶縁膜界面付近の電荷捕獲として、後者をZnOチャネル内の欠陥状態の生成として見ています。曲線の形が原因を分けてくれたわけです。
まとめ
- 一枚の曲線からしきい値電圧・サブスレッショルドスイング・移動度・オンオフ比の四つの数字が得られる。
- サブスレッショルドスイングには室温で約59.5 mV/decadeという計算可能な下限がある。
- 移動度は一つの数字ではない —— 抽出する方法とゲート電圧によって変わる。
- 必要なオンオフ比は画素が電圧をどれだけ長く保持しなければならないかから計算される。
- 曲線が横にずれるのか寝てしまうのかが原因を分ける。
次回はこの曲線の形がどこから来るのかを扱います —— トランジスタの電流式を自分で立ててみて、線形領域と飽和領域がなぜ分かれるのかを見ます。
参考資料
- T. Kamiya, K. Nomura, H. Hosono, "Present status of amorphous In–Ga–Zn–O thin-film transistors," Sci. Technol. Adv. Mater. 11, 044305 (2010):a-IGZO TFTのS値約100 meV/decade、オンオフ比10⁹超、飽和移動度8.2~12.6および電界効果移動度最大18 cm²V⁻¹s⁻¹
- M. Kimura et al., "Intrinsic carrier mobility in amorphous In–Ga–Zn–O thin-film transistors determined by combined field-effect technique," Applied Physics Letters 96 (2010):異なる膜に異なる移動度モデルが適用されてきた問題の提起、電界効果法と容量–電圧法を併用した普遍移動度モデル、熱処理の異なる素子を同じモデルに欠陥密度だけ変えて再現
- R. B. M. Cross, M. M. De Souza, "Investigating the stability of zinc oxide thin film transistors," Applied Physics Letters 89 (2006):低バイアスではしきい値以下の特性が変わらない平行移動、高バイアス・長時間ではしきい値以下の傾きの劣化 —— 電荷捕獲と欠陥生成の区別
- M. J. Powell, "The physics of amorphous-silicon thin-film transistors," IEEE Trans. Electron Devices 36, 2753 (1989):深い準位がしきい値電圧を、伝導帯テール準位が電界効果移動度を決めるという区別