前回は C–V 曲線を扱いました。容量を測ると電流だけを見ていては分からなかったことが表れる、という話でした。
今回は、それらの曲線が結局のところ何を映していたのかを見ます。前のシリーズではバンドギャップの中に電子はとどまれないと述べました。ウィキペディアの「Band gap」の項目も、バンドギャップを電子状態が存在しない固体中のエネルギー区間と定義しています。
それは完全な結晶の話です。薄膜トランジスタのチャネルはそのような材料ではありません。並びの乱れた材料では、バンドギャップの中にも席ができます。その席がエネルギーごとにどれだけびっしりあるかを記したものが DOS(Density of States、状態密度)です。
本文の条件値は計算の過程を示すための例であり、特定の会社の仕様ではありません。引用した数値はすべて公開文献で確認した値で、出典は記事の最後に残します。
状態密度 — 席がいくつあるのか
意味は単純です。ウィキペディアの 「Density of states」の項目は、状態密度を許された状態が単位エネルギー区間あたりいくつあるかを記述する量と定義しています。体積で割った D(E) = N(E)/V と書き、3 次元の単位は[エネルギー]−1[体積]−1 です。
座席表に近いものです。エネルギーを横軸に置き、そのエネルギーに座れる席がいくつあるかを縦に積み上げた図です。席があるということと電子が座っているということは別の話で、状態密度は前者だけを言います。
「Density of states」の項目は続けて、状態密度があるエネルギー区間で不連続であり、これは材料のバンドギャップの中に電子が占めうる状態がないという意味だと記しています。
ですから完全な結晶の状態密度の図ははっきりしています。価電子帯の側と伝導帯の側には席がたくさんあり、その間は床に貼りついています。少ないのではなくありません。
並びが乱れるとギャップの中にも席ができる
原子があるべき場所にないとどうなるでしょうか。いちばんよくあるのが切れた結合です。ウィキペディアの 「Dangling bond」の項目は、これを固定された原子に残った満たされない原子価と定義しています。相手を見つけられず一人で残った手です。「Dangling bond」の項目に、この回の出発点となる一文が載っています。
切れた結合ひとつは、格子の価電子帯と伝導帯の間に余分なエネルギー準位をひとつ加える。
空いているはずの区間に席ができるという意味です。そういう手が多ければ席も多くなり、それらがエネルギー軸に広がった形がギャップの中の状態密度です。こうした手が多い材料は決まっています。
- アモルファス — ウィキペディアの 「Amorphous silicon」の項目は、材料の無秩序な性質のために一部の原子が切れた結合を持つと記し、それが異常な電気的振る舞いを引き起こしうると記述しています。
- 多結晶 — 粒どうしが出会う境界は、内側のように整然とはなれません。ウィキペディアの 「Thin-film transistor」の項目は、多結晶シリコン TFT の界面と結晶粒界からトラップ状態を抽出する研究を関連文献として載せています。
- 界面 — チャネルとゲート絶縁膜が接する面も、並びが断たれる場所です。
埋める方法はあります。「Amorphous silicon」の項目は、この材料が水素でパッシベーションでき、その密度を何桁も下げると記述しています。ただし、その水素化がStaebler–Wronski 効果と呼ばれる光による劣化と関わるという一文も併せて載せています。
尾と深い席
ギャップの中の席は、どこにあるかで二つの群に分かれます。
裾状態 — 縁から流れ落ちたもの
乱れた材料では、帯の縁は刃物で切ったようには途切れません。ギャップの内側へ指数的に減りながら伸びていきます。対数目盛では直線で下がる形であり、これが裾状態(tail state)です。
この裾の長さには名前が付いています。ウィキペディアの 「Urbach energy」の項目は、アーバックエネルギー E0 を半導体の帯の縁にあるエネルギー的な無秩序を定量化するパラメータと定義しています。光の吸収が始まる地点の急峻さを表し、それがそのまま状態密度がどれだけ広く広がっているかだと記しています。
α(E) = α0 exp( (E − E1) / E0 )
数字もあります。「Urbach energy」の項目は水素化アモルファスシリコンの室温の E0 がふつう 50~150 meV だと記し、この値が切れた結合の密度とともに増加すると記述しています。乱れが大きいほど裾が長いという言葉が数字で確かめられたわけです。
深い状態 — ギャップの真ん中寄り
ギャップの真ん中寄りの席は別に深い状態(deep state)と呼びます。文献が二つを分ける理由はモデルの中で異なる関数として書くからです。酸化物薄膜トランジスタの状態密度を抽出した Materials 2018 年の論文(DOI 10.3390/ma11030416)はこう記しています。
- 界面の状態密度 — 一定の深い状態と指数的な裾状態を重ね合わせたもの
- バルク(膜の内側)の状態密度 — 指数的な深い状態と指数的な裾状態を重ね合わせたもの
Materials 2018 年の論文が取り出した裾の特性エネルギーは、界面側が 0.08 eV、膜の内側が 0.10 eV でした。先のアーバックエネルギー 50~150 meV と同じ桁です。光で測ったものと電気で取り出したものが似た大きさです。
規模も出ています。Scientific Reports 2016 年の論文(DOI 10.1038/srep24096)は、この状態密度がバンドギャップの縁でもっとも大きく 1017~1021 /(cm3·eV) の規模だと記し、裾には指数分布を、深いギャップ状態にはガウス分布を使うと記述しています。
深い席の例もあります。arXiv 2111.08588 はアモルファス酸化物半導体の中の水素を扱い、できた欠陥複合体が価電子帯側の縁から 0.4 eV 上に中心を持つ、幅およそ 0.3 eV の状態分布をバンドギャップの中につくると記述しています。
#04 と #05 の数字はこの分布の影だった
ここまでが材料の話です。ここからがこの回の中心です。先に読んできたパラメータが、実はこの分布を別の見方で見たものだったという話です。ゲートに電圧をかけるとチャネルに電子が集まります。ところが集まった電子がすべて電流に立つわけではありません。ギャップの中に席があれば一部はそこに座り、座った電子は流れられません。結果は二筋に分かれます。
しきい値電圧が動く
電流が目に見えて流れるにはギャップの中の席をまず埋めなければなりません。席が多いほど電圧が余計にかかり、その分しきい値電圧が押されます。Materials 2018 年の論文は酸化物薄膜トランジスタの電気的特性が活性層のバルクの状態密度と界面の状態密度に大きく影響されると記しています。
しきい値下の傾きが寝る
#05 の式をもう一度出します。ウィキペディアの 「Subthreshold slope」の項目は、しきい値下スイングをこう記していました。
S = ln(10) · (kT/q) · (1 + Cd/Cox)
Cd が 0 へ向かうか Cox がとても大きくなれば、室温 300 K で 60 mV/decade の下限に至るとも記しています。ギャップの中の席を入れると項がひとつ増えます。ゲート絶縁膜を扱った arXiv 2509.20014 は、界面状態密度 Dit を含む形を載せています。
SS = log(10) · (kBT/q) · (Cins + Csc + q2Dit) / Cins
q2Dit が分子にあります。ギャップの中の席が多いほど傾きが寝ます。arXiv 2509.20014 は、65 mV/decade 未満という目標には Dit が 1012 cm−2eV−1 より下でなければならないと記しています。
どれだけ重い数字なのか代入してみます。この記事はゲート絶縁膜が厚さ 100 nm の二酸化ケイ素である場合を仮定して計算します。ウィキペディアの 「Relative permittivity」の項目の比誘電率 3.9、「Vacuum permittivity」の項目の真空の誘電率 8.854 × 10−12 F·m−1、電気素量 1.602 × 10−19 C を使います。
- 絶縁膜容量 — Cox = 3.9 × 8.854 × 10−12 ÷ (100 × 10−9) ≈ 3.45 × 10−4 F/m2 = 3.45 × 10−8 F/cm2
- 界面状態の取り分 — Dit = 1 × 1012 cm−2eV−1 なら q·Dit ≈ 1.60 × 10−7 F/cm2
- 比 — 1.60 × 10−7 ÷ 3.45 × 10−8 ≈ 4.6
Csc を 0 とすれば SS ≈ 60 mV/decade × (1 + 4.6) ≈ 約 340 mV/decade です。下限の五倍を超えます。#05 で「傾きが寝る」とだけ書いたあの現象が、ここではギャップの中の席の数から出てきた数字になります。
移動度も同じところを指す
#06 で移動度がひとつではないと述べました。ここにもギャップの中の席が絡みます。「Urbach energy」の項目は、無秩序な半導体の振る舞いが多重捕獲と放出のメカニズムに支配されると記述しています。電子が捕まっては放されるのを繰り返しながら通り過ぎるという意味です。であれば、外から測って得た移動度はその繰り返しまで含めた値になります。
まとめると、#04 のしきい値電圧、#05 のしきい値下の傾き、#06 の移動度は、互いに異なる三つの性質ではありません。ひとつの分布が三つの窓に映した影です。
DOS をどうやって知るのか
その分布を直接見ればよさそうに思えます。問題は見られないことです。ギャップの中の席に目盛りは付いていません。
そこで向きをひっくり返します。測定できる曲線から逆に解くのです — 曲線を測り、状態密度の形を関数として仮定し、その仮定で計算した曲線が測定値と合うまで合わせ込みます。
どの曲線を使うかで方法が分かれます。Materials 2018 年の論文は数値計算、光照射、温度依存特性、多周波数 C–V を、Scientific Reports の論文は静的な方法、温度依存分光、光分光を挙げています。性格だけを見れば三筋です。
- 伝達曲線から — #02 と #05 の曲線です。しきい値下の区間が 60 mV/decade からどれだけ外れているかが、ギャップの中の席の数を指します。前節の式がその通路です。
- 温度を変えながら — 温度が変われば捕まった電子が放たれる程度も変わります。いくつもの温度で測れば、エネルギー軸をなぞる効果が出ます。
- C–V 曲線から — 前回の曲線です。容量は電荷がどこにどれだけ入ったかを数えますから、周波数を変えたり光を当てたりしながら測れば、状態密度の情報が乗ります。
いくつもの方法が互いに違う答えを与える
ここで #03 の結論がまた出てきます。パラメータは定義値だということです。
Scientific Reports の論文は、従来の方法が多くの仮定と計算、温度や光学的な影響を状態密度の本来の分布に持ち込みうると評価しています。測るために入れた条件が、測ろうとした対象に触れてしまうという意味です。Scientific Reports の論文は時間の尺度にも触れ、静的な状態で行った測定は過渡的な動作条件での電気的な振る舞いをきちんと記述しないと記しています。
どこを見るかでも分かれます。Materials 2018 年の論文は、界面もバルクもともに特性を左右すると記しながら、二つを同時に取り出すのはたいてい難しいと記述しています。
ですから「この材料の DOS はこうだ」だけでは意味が立ちません。どの方法で、どのエネルギー区間を、どの時間の尺度で見たのかを併せて明かしてはじめて比較になります。伝達曲線から取り出した値と C–V から取り出した値が違うなら、どちらかが間違っているのではなく別のものを見ていたのかもしれません。
まとめ
- 状態密度はあるエネルギーに座れる席が単位体積・単位エネルギーあたりいくつあるかです。完全な結晶のバンドギャップの中では 0 です。
- 並びが乱れると変わります。切れた結合ひとつが価電子帯と伝導帯の間に準位をひとつ加えます。アモルファス・多結晶・界面でそういう席が多くできます。
- ギャップの中の席は帯の縁から伸びる裾とギャップの真ん中寄りの深い席に分かれ、文献は二つを別の関数として書きます。
- #04 のしきい値電圧と #05 の傾きはこの分布が落とした影です。界面状態密度 1012 cm−2eV−1 に 100 nm の二酸化ケイ素を仮定すると、傾きは約 340 mV/decade まで寝ます。
- 状態密度は直接見られないので曲線から逆に解きます。方法ごとに仮定・エネルギー区間・時間の尺度が違うので互いに違う答えが出ます。
このシリーズはここで終わります。出力曲線(#01)から伝達曲線へ軸を変え(#02)、その上の数字が測定ではなく取り決めから出てくることを確かめました(#03)。その取り決めの上でしきい値電圧と gm(#04)、しきい値下の傾きとオン·オフ比(#05)、移動度と接触抵抗(#06)を取り出し、C–V で電流には見えないものを見ました(#07)。今回は、それらの数字がすべてひとつの分布を指していたことを確かめました。
次のシリーズ「TFT 特性異常と信頼性」では、固定された値のように扱ってきたこれらの数字が、時間とストレスを経てどう動くのかをたどります。
参考資料
- Density of states — Wikipedia : 状態密度の定義と D(E) = N(E)/V、3 次元の単位、バンドギャップの中に電子が占める状態がないという記述
- Band gap — Wikipedia : バンドギャップを「電子状態が存在しない固体中のエネルギー区間」と定義する一文
- Dangling bond — Wikipedia : 切れた結合の定義、価電子帯と伝導帯の間に余分な準位を加えるという記述、アモルファスシリコンでの高い濃度
- Amorphous silicon — Wikipedia : 無秩序のために一部の原子が切れた結合を持つという記述、水素パッシベーションで密度が何桁も下がるという記述、Staebler–Wronski 効果
- Urbach energy — Wikipedia : アーバックエネルギーの定義と吸収の式、室温の値 50~150 meV、切れた結合の密度とともに増加するという記述、多重捕獲·放出への言及
- Subthreshold slope — Wikipedia : S = ln(10)(kT/q)(1 + Cd/Cox) と 300 K の 60 mV/decade の下限
- Thin-film transistor — Wikipedia : 多結晶シリコン TFT の界面·結晶粒界のトラップ状態抽出に関する文献一覧
- Relative permittivity — Wikipedia : 二酸化ケイ素の比誘電率 3.9
- Vacuum permittivity — Wikipedia : 真空の誘電率 8.8541878188 × 10−12 F·m−1、電気素量 1.602176634 × 10−19 C
- Materials 11(3) 416 (2018), DOI 10.3390/ma11030416 : 界面 = 一定の深い状態 + 指数の裾、バルク = 指数の深い状態 + 指数の裾、裾の特性エネルギー 0.08·0.10 eV、抽出方法の一覧と同時抽出の難しさ
- Scientific Reports 6, 24096 (2016), DOI 10.1038/srep24096 : 1017~1021 /(cm3·eV) の規模、裾は指数·深い状態はガウス、従来の方法が仮定·温度·光学的影響を持ち込むという評価、静的な測定の限界
- arXiv:2111.08588 : 価電子帯側の縁から 0.4 eV 上に中心を持つ幅およそ 0.3 eV の状態分布
- arXiv:2509.20014 : 界面状態密度の項 q2Dit を含む SS の式と、65 mV/decade 未満に必要な Dit < 1012 cm−2eV−1
- ※ 上記の一覧のうち Wikipedia の項目から引用した部分は CC BY-SA 4.0 ライセンスに従います。