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TFT 特性パラメータ #04 — しきい値電圧と相互コンダクタンス

2026年10月23日·閲覧 18·コメント 0

シリーズTFT 特性パラメータの読み方·4 / 8話

前の三編で曲線の読み方を身につけました。出力曲線でドレイン電圧のする仕事を、伝達曲線でゲート電圧のする仕事を見ました。前編では、その曲線から取り出した数字が定義値であること — 方法と条件を併記しなければ比較できないことを確かめました。

本編はもう一枠奥へ入ります。素子がつく地点とどれだけ敏感に反応するかを、どう数字で書くのかを見ます。前者がしきい値電圧 Vth、後者が相互コンダクタンス gm です。順序は逆にして gm から立てます。しきい値電圧を取り出す方法の一つが gm を道具として使うからです。

答えるべき問いは一つです。「つく」と「よく反応する」を誰が読んでも同じ意味になる数字で書く方法です。

本文中の条件値は計算の過程を示すための例であり、特定の企業の仕様ではありません。引用した数値はすべて公開文献で確認した値で、出典は記事の末尾に残します。

相互コンダクタンス — 伝達曲線の傾き

英語版ウィキペディアの「Transconductance」の項目は、相互コンダクタンスを素子の出力を流れる電流を入力にかかった電圧と関係づける電気的特性と定義し、式を次のように記しています。

gm = ΔIout / ΔVin

トランジスタに移せば、入力はゲート電圧、出力はドレイン電流です。

gm = ∂IDS / ∂VGS

分子がドレイン電流の変化、分母がゲート電圧の変化です。酸化亜鉛薄膜トランジスタのしきい値電圧抽出の論文(DOI 10.3390/ma16082940)も同じ式を使っています。

#02 編の伝達曲線は、横軸がゲート電圧、縦軸がドレイン電流でした。ですから gm は新しい物理量ではなくその曲線の傾きです。曲線を一点ずつたどって傾きを測り、描き直せば gm 曲線になります。

単位が意味を教えてくれる

gm の単位はジーメンス(siemens、記号 S)です。ウィキペディアの「Siemens (unit)」の項目は、1 ジーメンスが 1 オームの逆数でありアンペア割るボルトに等しいと記し、その意味をこう解いています — コンダクタンスが 1 ジーメンスの素子は、電位差が 1 ボルト増えるごとに電流が 1 アンペア増えます。

トランジスタに移せば、gm の意味がそのまま出てきます。gm が大きいとは、ゲート電圧を少し動かしたときにドレイン電流が大きく動くという意味 — 入力の変化を出力の変化に変える能力です。

「Transconductance」の項目は、下付きの m が mutual(相互)から来ていると記しています。入力と出力が別の端子にあることから付いた名前で、一つの端子の中で電圧と電流の比を見る普通のコンダクタンスと区別するための表記です。

使いどころは二つに分かれます。増幅器として使うとき、gm は利得の源です — 入力電圧の小さな揺れが出力電流の大きな揺れに変わる比率が、そのまま gm です。スイッチとして使うときには、同じ値がつく勢いを左右します。目標の電流に届くのにゲート電圧をどれだけ押さなければならないかが gm で決まります。

伝達曲線と、その傾きである相互コンダクタンス曲線 — 同じ測定の曲線を微分すると g_m 曲線になり、g_m が最大になる地点が現れる

領域が変われば式も変わる

gm が傾きであるなら、電流式を微分して gm の式を得ることができます。ところが #01 編で見たとおり、ドレイン電流の式は領域ごとに違います。ウィキペディアの「MOSFET」の項目が載せている二つの式をそのまま持ってきます。

線形領域

条件は VGS > Vth であり、かつ VDS < (VGS − Vth) です。

ID = μ Cox (W/L) [ (VGS − Vth) VDS − VDS2 / 2 ]

記号を解くとこうなります。μ はキャリアの移動度、Cox はゲート絶縁膜の単位面積あたりの容量、W はチャネルの幅、L は長さです。W/L は #03 編で見た寸法の正規化のあの比です。

VGS で微分します。括弧の中で VGS を含む項は前の一つだけで、しかも一次です。

gm,lin = μ Cox (W/L) VDS

結果に VGS がありません。この式のとおりなら、線形領域の gm はゲート電圧と無関係な定数であり、代わりに VDS に比例します。

飽和領域

条件は VGS > Vth であり、かつ VDS ≥ (VGS − Vth) です。「MOSFET」の項目はこの地点をピンチオフと呼び、ドレイン側でチャネルが消える状態として説明しています。

ID = ( μ Cox / 2 ) (W/L) (VGS − Vth)2 ( 1 + λ VDS )

λ はチャネル長変調を担う項です。それを外して(λ = 0)微分します。二乗を微分すると指数の 2 が前へ出て、2 で割ったのと相殺されます。

gm,sat = μ Cox (W/L) (VGS − Vth)

今度は VGS が残りました。飽和領域の gm はゲート電圧に比例して大きくなります。線形領域では定数だったものが、ここでは直線になります。どの領域で測った値なのかを明かさなければ、gm 一つとして比較できません。

(VGS − Vth) をオーバードライブ電圧 VOV、すなわちしきい値を越えた分と呼びます。飽和の電流式を gm,sat で割ると次のようになります。

gm,sat = 2 ID / VOV

微分して得た式が、ウィキペディアの「Transconductance」の項目の式と合致します。

数字で一度

本稿は次を仮定して計算します。移動度 μ = 10 cm2/V·s、ゲート絶縁膜は二酸化ケイ素 100 nm、W/L = 20 です。

まず Cox を求めます。ウィキペディアの「Relative permittivity」の項目は二酸化ケイ素の比誘電率を 3.9 と、「Vacuum permittivity」の項目は真空の誘電率を 8.8541878188 × 10−12 F/m(= 8.854 × 10−14 F/cm)と記しています。平行板容量 C = ε / d に入れます。

Cox = 3.9 × 8.854 × 10−14 ÷ (100 × 10−7 cm) = 3.45 × 10−8 F/cm2

前の部分を一つのかたまりにまとめます。μ Cox (W/L) = 10 × 3.45 × 10−8 × 20 = 6.9 × 10−6 A/V2 です。

  • 線形領域で VDS = 0.1 V として測れば gm,lin = 6.9 × 10−6 × 0.1 = 0.69 μS です。
  • 飽和領域で VOV = 5 V ならば gm,sat = 6.9 × 10−6 × 5 = 34.5 μS です。

同じ素子なのに 50 倍の違いです。検算も合います。ID = ½ × 6.9 × 10−6 × 52 = 86.3 μA、2 ID / VOV = 34.5 μA/V で上と同じです。34.5 μS とは、ゲート電圧を 1 V 上げるときにドレイン電流が 34.5 μA 増えるという意味です。

しきい値電圧を取り出す三つの方法

いよいよ、つく地点です。ウィキペディアの「Threshold voltage」の項目は、しきい値電圧をソースとドレインのあいだに伝導経路をつくる最小のゲート・ソース電圧と定義しています。

定義は一行ですが、測る作業は一行ではありません。「Threshold voltage」の項目が理由を記しています — しきい値の下でも漏れ電流が流れるため、真のオン・オフ遷移がないからです。曲線のどこにも「ここから伝導経路ができた」という印がありません。ですから人が規則を定めて一点を指し示します。

① 線形外挿

どうするのか。線形領域で伝達曲線を描き、gm が最大になる点に接線を引きます。その直線が電流 0 の横軸と交わるゲート電圧を読みます。

何を仮定するのか。上の線形領域の式がそのまま成り立つと見ます。その式を VGS の関数に整理すれば直線であり、電流が 0 になる地点は VGS = Vth + VDS/2 です。切片がしきい値電圧より VDS/2 だけ大きく出ますから、読んだ値からその分を引かなければなりません。ドレイン電圧をごく小さくかける理由がここにあります — 補正すべき量そのものを減らすのです。

いつ外れるのか。いまの微分で線形領域の gm は定数でしたし、定数に最大点はありません。実際の曲線に峰ができること自体が、この式がそのままでは合わないという合図です。ゲート電圧が高くなると移動度が落ち、接触抵抗が大きくなって傾きがふたたび下がり、そこで峰ができます。峰の位置が素子の非理想性に懸かっているのですから、切片もそれにつれて動きます。ゲート電圧が接触抵抗まで一緒に調節してしまう問題を扱った論文(arXiv:2404.19022)は、この効果を入れていない既存の抽出法が移動度を 2 倍以上過大評価しうると報告しています。

先に挙げた酸化亜鉛の論文がこれを数値で示しています。同じ素子を線形フィッティングで取り出すにあたり、合わせる範囲を 40 V までにすると 25 V でしたが、60 V・80 V まで広げると 36 V・42 V へと大きくなりました。素子はそのままで、定規を当てた区間だけを変えた結果です。

② 一定電流

どうするのか。基準となる電流を定めておき、ドレイン電流がその値に届くゲート電圧をしきい値電圧とします。曲線に横線を引いて交わる点です。

ウィキペディアの「Threshold voltage」の項目もこのやり方を記しています。データシートが測定可能な電流値を定めて、その電流でのしきい値電圧を記すというものです。例として挙げる値は 250 μA と 1 mA です。

何を仮定するのか。一つの基準電流で複数の素子を比較できるということです。ところが電流式には W/L が掛け算で入っていますから、幅が二倍の素子は同じゲート電圧で電流が二倍です。絶対値一つをすべての寸法に使えば、広い素子が先にその線に届き、しきい値電圧が低く出ます。そこで基準電流を Iref = (W/L) × I0 という形で記します。

いつ外れるのか。I0 を何に置くかが人の選択です。しきい値下の傾きがゆるやかな素子と急な素子を同じ横線で切れば、線の高さを少し動かしただけで二つの素子の値の差が変わります。曲線の形が違えば、一本の線の高さが二つの素子に同じ意味を持ちません。

その代わり長所は明らかです。微分も接線も要らず、曲線一本からそのまま読めます。

③ 平方根外挿

どうするのか。飽和領域で伝達曲線を測り、縦軸を電流の平方根に変えて描き直します。そのグラフのまっすぐな区間に直線を合わせ、横軸と交わる点を読みます。

何を仮定するのか。飽和の電流式が (VGS − Vth) の二乗であるという点です。両辺に平方根をかぶせます。

√ID = √( μ Cox W / 2L ) × (VGS − Vth)

右辺は VGS についての一次式です。√ID が 0 になる地点はちょうど VGS = Vth です。線形外挿と違って引くべき補正項がありません。傾きから μ まで取り出せますから、一度の外挿で二つのパラメータが出ます。

いつ外れるのか。二乗則が前提です。移動度がゲート電圧に応じて変われば、√ID は直線ではなくゆるやかな曲線になります。曲線に定規を当てた瞬間、①と同じ問題が戻ってきます — どの区間に合わせるかによって切片が変わります。

しきい値電圧抽出の三方法の比較 — 線形外挿・一定電流・平方根外挿がそれぞれ何をし、何を仮定し、どこで外れるのか

三つの方法は同じ答えをくれない

三つの方法は互いに違うものを測っています。

  • 線形外挿 — 傾きがもっとも急なところ。十分についた区間の性質です。
  • 一定電流 — 定めておいた電流の高さ。つく途中の一点です。
  • 平方根外挿 — 飽和領域の二乗則。ドレイン電圧が大きくかかった状態の性質です。

基準が違えば答えも違います。条件も違います — 線形外挿はドレイン電圧をごく小さくかけ、平方根外挿は大きくかけます。#03 編で見たとおり、ドレイン電圧は曲線の形そのものを変えます。

ですから「この素子のしきい値電圧はいくつか」には答えが一つに定まりません。「線形領域で VDS = 0.1 V として線形外挿した値」のように、方法と条件を添えてはじめて答えになります。それを明かしていないしきい値電圧を二つ見比べる作業は、違う定規で測った長さを比べる作業です。値が間違っているのではなく、比較が成り立たないのです。

しきい値電圧は素子に刻まれた定数ではない

方法を固定しても、値はじっとしていません。

温度。ウィキペディアの「Threshold voltage」の項目は、しきい値電圧の温度変化をドーピング濃度に応じて −4 mV/K から −2 mV/K のあいだと記しています。符号が負ですから、熱くなるほど下がります。50 K の違いなら 0.1 V から 0.2 V 動きます。

バイアス履歴。ゲートに電圧を長くかけておくこと自体が素子を変えます。ウィキペディアの「Bias temperature instability」の項目は、負のゲートバイアスと高い温度のもとで界面の結合が切れてトラップが生じ、その結果しきい値電圧が上がりドレイン電流が減ると記述しています。移動量は ΔVth(t) = A · tn の形で近似され、係数 A は電界・絶縁膜の厚さ・温度の影響を受けます。応力を取り除けば部分的に回復する、ただし回復は完全ではないとも付け加えています。

基板電圧。「Threshold voltage」の項目は、ソース・基板間の電圧がしきい値電圧を変えるボディ効果を載せ、基板が二つめのゲートのようにはたらくと説明しています。回路の中でソースが接地から浮いていれば、その素子のしきい値電圧は隣の素子と同じではありません。

光もしきい値電圧を動かしますが、それは材料と欠陥の話であり本シリーズの範囲を越えます。別のシリーズで扱います。

しきい値電圧は測定するその瞬間の条件にくっついている値です。「方法を明かす」に「いつ・どんな状態で測ったのか」がもう一つ加わります。

しきい値電圧を動かす三つの軸 — 温度係数 −4~−2 mV/K、バイアス履歴によるべき乗の移動と部分的な回復、基板電圧によるボディ効果

まとめ

  • gm = ∂IDS/∂VGS は伝達曲線の傾きであり、単位のジーメンスは「1 V 上げるときに電流が何 A 増えるか」を意味します。
  • 線形領域の gm はゲート電圧と無関係で、飽和領域の gm はゲート電圧に比例します。例の条件では 0.69 μS と 34.5 μS で 50 倍の違いでした。
  • 線形外挿・一定電流・平方根外挿は基準が互いに違います。線形外挿は切片から VDS/2 を引かねばならず、平方根外挿は切片がそのまま Vth です。
  • ですから答えが互いに違います。定規を当てた区間だけを変えて 25・36・42 V が出たという報告があります。方法と条件を記していないしきい値電圧は、比較の対象になりません。
  • しきい値電圧は固定された性質でもありません。温度・バイアス履歴・基板電圧によって動き、回復も完全ではありません。

次編は、その傾きの中に含まれる移動度をどう引き出すのか、その値がなぜ材料の定数ではないのかを見ます。

参考資料

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