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TFT 特性パラメータ #06 — 移動度と接触抵抗

2026年11月1日·閲覧 2·コメント 0

シリーズTFT 特性パラメータの読み方·6 / 8話

#05 までは伝達曲線から数字を取り出す方法をたどってきました。しきい値電圧、トランスコンダクタンス gm、しきい値下の傾きです。この回の主役は、その gm の中に入っていた移動度です。

移動度は前の三つとは性格が違います。しきい値電圧は素子をどう作ったかで決まる値ですが、移動度はもともと材料の性質です。ところが素子で測ると、材料の値がそのまま出てきません。

食い違いの根は二つあります。電流が流れる場所が材料の真ん中ではなく絶縁膜と接した界面であること、そして私たちが測る抵抗の中に金属と半導体が接した場所の抵抗が混ざっていることです。

本文の条件値は計算の過程を示すための例であり、特定の会社の仕様ではありません。引用した数値はすべて公開文献で確認した値で、出典は記事の最後に残します。

移動度 — 電場ひとつあたりどれだけ速く流れるか

電場をかけなければ、電子は固体の中をどの方向へも動き回ります。ウィキペディアの 「Electron mobility」の項目は、このとき平均としてはどちらにも電荷が運ばれないと記しています。電場をかけると電子は加速されますが、結晶欠陥・フォノン(格子振動)・不純物に繰り返しぶつかって方向とエネルギーを失います。そのため際限なく速くなる代わりに有限の平均速度にとどまり、これがドリフト速度(drift velocity)です。

移動度は、そのドリフト速度と電場をつなぐ比例定数として定義されます。

vd = μ E

「Electron mobility」の項目は、この定義から単位がそのまま出てくると記しています。速度の単位は m/s、電場の単位は V/m ですから、移動度の単位は (m/s) ÷ (V/m) = m2/(V·s) です。実際には cm2/(V·s) のほうがはるかによく使われ、1 m2/(V·s) = 104 cm2/(V·s) です。見慣れない単位のようですが、「速度割る電場」でしかありません。

数字を入れてみると感覚がつかめます。μ = 10 cm2/(V·s) の材料に 1,000 V/cm をかけると vd = 10 × 1,000 = 10,000 cm/s、すなわち 100 m/s です。

何が移動度を決めると式は言っているのか

「Electron mobility」の項目は、ニュートンの運動の第二法則から出発して移動度を導きます。衝突と衝突の間の平均時間を τc、有効質量を m* とすると

μ = e τc / m*

式がそのまま答えです。ぶつからずに長く走るほど(τc が大きいほど)、有効質量が軽いほど移動度は大きくなります。移動度がなぜ材料ごとに違うのか、なぜ同じ材料でも電子と正孔で違うのかが、ここでまとめて出てきます。

ぶつかる相手が複数あるときはマティーセンの法則(Matthiessen's rule)で合わせます。

1/μ = 1/μ不純物 + 1/μ格子 + 1/μ欠陥 + …

逆数を足す形ですから、いちばん小さな項ひとつが全体を引き下げます。「Electron mobility」の項目は、これが近似であり各散乱が独立なときにのみ成り立つという但し書きも添えています。

前のシリーズ #01 で引用した材料ごとの値も「Electron mobility」の項目の表から来たものです — 結晶シリコンが電子 1,400・正孔 450、多結晶シリコン 100、アモルファスシリコン 約 1 cm2/(V·s) です。同じシリコンなのに、原子の並びが乱れるほど三桁ずつ減っていきます。

移動度の定義 — 電場がないときのランダムな運動と電場があるときのドリフト運動、v = μE から単位 cm²/(V·s) が出てくる過程、結晶・多結晶・アモルファスシリコンの移動度の値

素子から移動度を取り出す二つの方法

移動度は曲線の上に示されてはいません。#03 の結論のとおり定義値ですから、どの式でどの区間から取り出すのかを先に決めなければなりません。ウィキペディアの「Electron mobility」の項目は、トランジスタで測る移動度を電界効果移動度(field-effect mobility)と呼び、方法は二つだと記しています — 飽和領域と線形領域です。

この記事は次の値を仮定して計算します。#04 と同じ素子です — 移動度 μ = 10 cm2/(V·s)、ゲート絶縁膜は二酸化ケイ素 100 nm、W/L = 20。ウィキペディアの 「Relative permittivity」の二酸化ケイ素の比誘電率 3.9 と 「Vacuum permittivity」の真空の誘電率を入れると Cox = 3.45 × 10−8 F/cm2 です。

線形領域 — gm を戻す

ウィキペディアの 「MOSFET」の項目の線形領域の電流式で、VDS がごく小さければ電流は VGS に対してほぼ直線になり、その傾き mlin がそのまま #04 の gm です。「Electron mobility」の項目は、ここから移動度をこのように戻します。

μ = mlin × (L/W) × (1/VDS) × (1/Ci)

#04 でこの素子の gm,lin は VDS = 0.1 V で 0.69 μS でした。

μ = 0.69 × 10−6 ÷ (3.45 × 10−8 × 20 × 0.1) = 10 cm2/(V·s)

入れた値がそのまま戻ってきました。式が合っているという確認であって、素子を測ったわけではありません。

飽和領域 — 平方根の傾きを使う

飽和電流は (VGS − Vth) の二乗ですから、両辺に平方根をかけると直線になります。#04 でしきい値電圧を読んだあの直線ですが、今回は切片ではなく傾き msat を使います。

μ = msat2 × (2L/W) × (1/Ci)

同じ素子で msat = √(μCoxW / 2L) = 1.86 × 10−3 A1/2/V であり、これを上の式に入れると再び 10 cm2/(V·s) です。

ところが実際の素子では二つの値が分かれる

式の上では同じ値が出ます。分かれるのはその電流式が素子を正確に記述していないからです。

「Electron mobility」の項目は、二つの方法にそれぞれ但し書きを添えています。飽和領域の方法はチャネル長変調をはじめいろいろなものを無視するので真の値より低く見えることがあり、線形領域の方法は、VDS が十分に小さくないかゲート電圧が十分に大きくないと素子が線形領域にとどまらないため真の値より高く見えることがあります。

ですから「この素子の移動度はいくつだ」はそれ自体では完結しません。どの領域でどの式で取り出したのかを添えてはじめて、比較できる数字になります。#03 の結論がここでも繰り返されます。

電界効果移動度を取り出す二つの方法 — 線形領域の伝達曲線の傾きから取り出す方法と飽和領域の平方根曲線の傾きから取り出す方法、そして二つの値が分かれる理由

なぜ材料の値より低く出るのか

ここまでは式の問題でした。次は物理のほうです。ウィキペディアの「MOSFET」の項目は、ゲート電圧がしきい値を越えると半導体と絶縁膜の界面のそばの薄い層にキャリアが集まって反転層(inversion layer)をつくると記しています。薄膜トランジスタのモデルを扱った論文(arXiv:1812.08800)も、動ける電荷がすべて半導体とゲート絶縁膜の界面に閉じ込められているという前提から出発します。

この一文が問題のすべてです。電流は材料の中ではなく界面に貼りついて流れます。ところがその界面は滑らかではありません。

「Electron mobility」の項目の界面ラフネス散乱の項は、高分解能電子顕微鏡の観察を根拠に、界面が原子レベルできれいに切れておらず、境界面の位置が表面に沿って原子層一、二個分だけ上下すると記しています。そのでこぼこが界面のエネルギー準位を揺らし、それが散乱になります。「Electron mobility」の項目は、界面付近に閉じ込められた電荷も散乱源になると付け加えています — 欠陥が電荷を捕まえると帯電し、通り過ぎるキャリアを押したり引いたりするからです。

グーグル特許の US6548335B1 はもっと断定的に記しています — シリコン格子でキャリア散乱を引き起こすもっとも主たる要因がゲート電極層とその下の絶縁層との間の表面ラフネス、すなわちシリコン/シリコン酸化膜界面であり、この原子レベルのラフネスが散乱を増やしてチャネルキャリア移動度を下げるというものです。

マティーセンの法則に戻れば結論はすぐに出ます。材料の移動度に界面ラフネス散乱の項が加わるのですから、逆数を足した結果は必ずもとより小さくなります。素子で測った移動度が材料の値より低いのは例外ではなく、構造が決めた結果です。

ゲート電圧を上げると移動度が下がる

もっと厄介なことがあります。ゲート電圧を上げるとキャリアが増えて電流は大きくなりますが、そのキャリアを界面のほうへより強く押しつけるのも同じゲート電圧です。

4H-シリコンカーバイド MOSFET の移動度をホール効果で解析した論文(Materials 15, 6736, 2022)がこの過程を直接記述しています。界面に垂直な電場が大きくなるとキャリアは表面により近く押しやられ、そうなるほど界面ラフネス散乱がより大きく効いて測定移動度が下がる、というものです。この Materials の論文はその減少をべき乗にまとめ、指数が n チャネル −1.8 ± 0.2、p チャネル −2.4 ± 0.3 だったと報告しています。指数はその材料・その素子の測定値ですが、垂直電場が大きくなるほど移動度が下がるという向きは、界面に貼りついて流れる構造から出てきます。

ですから「この素子の移動度」という一つの数字は、どのゲート電圧で取り出したのかを併せて言わなければ意味が立ちません。前のシリーズ #08 で見た高電界移動度低下と同じ話ですが、あのときがチャネルに沿って流れる方向の電場だったのに対し、ここではチャネルを界面に押しつける方向の電場です。

チャネルではない抵抗 — 接触抵抗

原因がもう一つ残っています。二つの端子の間で測る抵抗は、チャネルだけの抵抗ではありません。

ウィキペディアの 「Contact resistance」の項目は、接触抵抗を接し合う表面が完全にはくっつかないこと、そして表面の膜や酸化層のために生じる電流の流れの妨げと定義しています。ソース・ドレインの金属と半導体が接する場所にもこの抵抗があります。

R全体 = Rチャネル + 2 Rc

ソース側とドレイン側に一つずつですから二倍です。ところがチャネル抵抗はチャネルが長いほど大きくなるのに対し、接触抵抗はチャネル長と無関係です。ここで問題が生じます。

先の仮定の素子で数を並べてみます。オーバードライブ電圧 5 V でチャネルのシート抵抗は 1 ÷ (μ Cox VOV) = 579 kΩ/square です。チャネル幅 W は 100 μm、接触抵抗二つの和 2Rc は 20 kΩ と仮定します。

  • L = 40 μm — チャネル 232 kΩ + 接触 20 kΩ = 252 kΩ。接触の取り分 7.9 %
  • L = 30 μm — チャネル 174 kΩ + 接触 20 kΩ = 194 kΩ。接触の取り分 10.3 %
  • L = 20 μm — チャネル 116 kΩ + 接触 20 kΩ = 136 kΩ。接触の取り分 14.7 %
  • L = 10 μm — チャネル 58 kΩ + 接触 20 kΩ = 78 kΩ。接触の取り分 25.7 %

この抵抗をすべてチャネルのものとみなして移動度を取り出すと、入れた値 10 の代わりにチャネルの取り分の割合だけが戻ってきます — L = 40 μm で 9.2、30 μm で 9.0、20 μm で 8.5、10 μm で 7.4 です。

同じ材料、同じ界面なのにチャネルが短いほど移動度が低くなったように見えます。移動度が変わったのではなく、接触抵抗の取り分が大きくなっただけです。

TLM — チャネル長を変えながら直線を引く

接触抵抗だけを切り分ける方法がここから出てきます。上の一覧をもう一度見ると規則が見えます。チャネル長に対して全体の抵抗が直線であり、その直線を L = 0 まで延ばせばチャネルが消えるので、残るのは接触抵抗二つだけです。

ウィキペディアの 「Transfer length method」の項目がこれを式で記しています。

R全体 = (RS / Z) d + 2 Rc

RS はシート抵抗、Z は幅、d は二つの接触の間の距離です。「Transfer length method」の項目は縦軸切片が 2Rc、傾きが RS/Z だと記しています。一度の測定では切り分けられなかった二つの値が、長さを変えて何度か測るだけで切り分けられます。薄膜トランジスタのモデル論文(arXiv:1812.08800)も、チャネル長の異なる素子のオン抵抗をチャネル長に対して描く同じ手順を使います。

上の四点で直線を引くと、傾きが 5.79 kΩ/μm、縦軸切片が 20 kΩ です。切片を二つに割った 10 kΩ が片側の接触の抵抗であり、傾きに幅 100 μm を掛けた 579 kΩ/square がチャネルのシート抵抗です。入れた値そのままです。

横軸切片にも意味があります。「Transfer length method」の項目は、金属の下で電圧降下の大部分が起きる長さを伝達長 LT = √(ρc / RS) と定義し、接触抵抗を Rc ≈ √(RS ρc) / Z と記しています。二つの式をつなぐと Rc = RS LT / Z であり、これを上の直線の式に入れて R全体 = 0 になる点を解くと d = −2 LT が出ます。例の値では −3.45 μm ですから LT は 1.73 μm です。電流が金属へ渡るのに使う幅がそれだけだという意味です。

接触抵抗が定数であるわけでもありません。arXiv:2404.19022 は、ゲート電場がチャネルだけでなく接触抵抗まで一緒に調節する素子では、従来の抽出法が移動度を2 倍以上過大評価しうると記しています。

伝送線路測定法 TLM — 全体の抵抗がチャネル抵抗と二つの接触抵抗の和であり、チャネル長を変えて描いた直線の縦軸切片が接触抵抗の二倍になる

まとめ

  • 移動度は vd = μE で定義されます。単位 cm2/(V·s) は「速度割る電場」であり、μ = eτc/m* は長く走るほど・軽いほど大きいという意味です。
  • 素子から取り出す方法は二つです。線形領域の gm から取り出すか、飽和領域の √IDS の傾きから取り出します。前者は真の値を高く、後者は低く見ることがあり、二つの値が分かれます。
  • チャネルは材料の中ではなく絶縁膜の界面に貼りついて流れます。界面のラフネスと閉じ込められた電荷がキャリアを散らし、ゲート電圧を上げるとキャリアが界面により強く押しつけられて散乱が増え移動度が下がります。
  • 測定した抵抗は Rチャネル + 2Rc です。チャネルが短いほど接触の取り分が大きくなります — 例の条件で L を 40 μm から 10 μm に縮めると、移動度が 9.2 から 7.4 に下がって見えました。
  • TLM はチャネル長を変えながら全体の抵抗を測り、直線を引く方法です。縦軸切片が 2Rc、傾きがシート抵抗割る幅、横軸切片が −2LT です。

この回で Cox は、ただ入れて使う定数でした。次回はその定数を測るほうへ移ります — 電流ではなく容量を測る C-V 測定であり、いま問題の根として名指ししたあの界面が容量曲線にどう現れるのかを見ます。

参考資料

  • Electron mobility — Wikipedia : ドリフト速度の定義と vd = μE、単位の導出、μ = eτc/m*、マティーセンの法則とその但し書き、界面ラフネス散乱(界面が原子層一、二個分だけ上下するという観察)と閉じ込められた電荷の散乱、材料ごとの移動度の表(結晶シリコン 1,400·450、多結晶シリコン 100、アモルファスシリコン ~1)、電界効果移動度の線形・飽和の二つの抽出式とそれぞれが真の値を高く・低く見ることがあるという但し書き
  • MOSFET — Wikipedia : 反転層が半導体と絶縁膜の界面のそばの薄い層にできるという記述、線形・飽和領域のドレイン電流式、オーバードライブ電圧の定義
  • Contact resistance — Wikipedia : 接触抵抗の定義(接し合う表面の不完全な接触と表面の膜・酸化層による妨げ)、金属–半導体接触の測定法として TLM が使われるという記述
  • Transfer length method — Wikipedia : R全体 = (RS/Z)d + 2Rc、縦軸切片 2Rc・傾き RS/Z、伝達長 LT = √(ρc/RS) と Rc ≈ √(RSρc)/Z、間隔を変えて測り直線を当てはめる手順
  • Transconductance — Wikipedia : gm = ΔIout/ΔVin の定義と単位ジーメンス
  • Critical Evaluation of Organic Thin-Film Transistor Models (arXiv:1812.08800) : 動ける電荷がすべて半導体とゲート絶縁膜の界面に閉じ込められているという前提、抵抗をチャネルの取り分と接触の取り分に分けるという記述、チャネル長の異なる素子のオン抵抗を長さに対して描く TLM の手順
  • Mobility and Threshold Voltage Extraction in Transistors with Gate-Voltage-Dependent Contact Resistance (arXiv:2404.19022) : ゲート電場が接触抵抗まで調節する素子では従来の抽出法が移動度を 2 倍以上過大評価しうるという報告
  • US6548335B1 — Selective epitaxy to reduce gate/gate dielectric interface roughness (Google Patents) : キャリア散乱のもっとも主たる要因がゲート電極層とゲート絶縁層の間の表面ラフネス(シリコン/シリコン酸化膜界面)であるという記述、原子レベルのラフネスが散乱を増やしてチャネルキャリア移動度を下げるという記述
  • Study of Carrier Mobilities in 4H-SiC MOSFETs Using Hall Analysis, Materials 15, 6736 (2022) : 垂直電場が大きくなるとキャリアが表面により押しやられ界面ラフネス散乱が大きくなって測定移動度が下がるという記述、有効電場に対するべき乗の指数 n チャネル −1.8 ± 0.2 · p チャネル −2.4 ± 0.3
  • 計算に使った定数 : Relative permittivity(二酸化ケイ素 3.9) · Vacuum permittivity(8.854 × 10−12 F/m) — どちらも Wikipedia
  • ※ 上記の一覧のうち Wikipedia の項目から引用した部分は CC BY-SA 4.0 ライセンスに従います。

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